2009年12月14日月曜日

第三百三十八段 古胡今習?

習近平・中国国家副主席の来日にあたって、民主党が今までの慣例を破る形で副主席と今上天皇との接見を設定したことが国内各所に波紋を呼んでいる。それについてふと思ったことを書き連ねてみる。

考えると最近来日した中国要人で今上天皇と接見した人物と言えばまず2008年に来日した胡錦濤主席、それ以外となると2007年の温家宝首相、さらに遡って1998年の主席時代の江沢民氏となる。いずれも錚々たるメンバーである(因みに、先般来日した梁光烈国防相は今上天皇とは接見せずに帰国している)。しかも、当然ながらこれら中国の主席や首相と今上天皇との接見は今回問題になっている「1ヶ月ルール」に則った形で行われている。

それに比べると、副国家主席に就任してから1年程度の習近平氏に対し、今までの国家主席や首相に対してまで守られてきた慣例を無視して今上天皇との接見を設定するというのは、かなり破格の待遇といってもいいだろう。無論これは中国との関係を重視する日本民主党が新しい政権与党になったという点が大きく、中国に対して警戒心の高い日本国内保守派層を中心とした反発を読んでいる。


一方で今回の今上天皇との接見は、習近平副主席にとってもリスクとなり得る側面がある。例えば今まで国家主席や首相が来日した際に日本の今上天皇と接見したとしても、「首脳外交上の一儀礼」として中国内に説明すれば問題のない話である。
しかし、国家副主席に就任してまだ日が浅く、特に目を引くような功績も無い習近平副主席が来日し、それに日本側が天皇接見を始めとした最高待遇(しかも一部慣例を破ってまでの)で迎えたとしたらどうなるだろう? その場合、習近平氏とその勢力は以下の危険、若しくはそれらが複合化した危険を背負うことになる。

1.胡錦濤現指導部からの疑念
  →今回、就任して日の浅い副国家主席に破格の待遇を日本側は示したわけだが、どうだろう?
   部下が取引相手から自分と同等かそれ以上の待遇で接待されたと分かった時、平静でいられる
   上司はどれだけいるだろうか? 寧ろ部下に対して「早くも俺と同格になったつもりか?」と疑念
   に駆られたり、或いは「部下は取引先と結託して自分の追い落としを図っているのではないか?」
   といった具合に警戒感を高める事の方が多いのではないか?
   少なくとも「君は俺よりも好待遇の接待を受けたのか。そりゃよかった」と喜ぶ上司はいない筈で
   ある。そして未だ政権交代が制度化されておらず、最高指導者の人格に多くの面を負っている
   中国政府の有り様を考えると、今回の日本側の破格の待遇が習近平氏の今後に好影響を与え
   ることは考えにくかろう。

2.対日強硬派からの攻撃
  →たとえば日本で考えてみよう。大臣等に就任してまだ間もない人物が外国訪問をし、そこで
   慣例無視の接待を受けたとする。この時、多くの国民は「わぁ、就任間もない我が国の大臣を
   ここまで歓迎してくれるなんて、あの国は何と良い国なのだろう」と思うだろうか? しかもその国と
   は歴史的にも経済的にも多くの摩擦や問題を抱えているとしたらどうだろう?
   寧ろ多くの人々は「今回の大臣、就任間もないのにあんな関係を受けるなんて、どこか不自然じゃ
   ないか?」と疑念を抱くのではないだろうか?
   そしてそんな状態で対外強硬派が「あの新大臣は相手国に我が日本の国益を売り渡した売国
   奴だ!」と攻撃を加えたらどうなるか? 恐らく事実関係がどうであれ、多くの人は新大臣に対し
   て日本の国益を託すには望ましからざる人物だという印象を抱くと思われる。
   同じことが中国についても当てはまるだろう。しかも、中国共産党の中国支配の正統性は、何よ
   りも「中国大陸の人民を腐敗した国民党と残虐極まりない軍国主義日本から解放した」ことによっ
   ている(というか、それしかないとも言える)。そんな党の要人に「対日宥和派」のレッテルが張られ
   た場合、張られた側の政治的ダメージが如何に大きいか?
   それはかつての国家主席胡耀邦の対日穏健外交が「中曽根首相の靖国参拝を抑え込めなかっ
   た軟弱外交」との批判を浴び、それが彼の後日の失脚の一因ともなったことからも窺える。

以上の点から、今回の今上天皇との接見は、習近平副主席にとっても有難迷惑(贔屓の引き倒し)的な側面があると考えられよう。

逆に言うと日本側としては、習近平国家副主席に訪日以降至れり尽くせりの待遇を続け、中国側に「習近平は日本と親密」というイメージを定着させ、その後「靖国」や「歴史問題」で中国の反日感情をわざと炎上させることで、親日イメージのついた習近平氏の失脚を狙うという火遊びもないわけではない。

そしてそこまで狙って民主党政権が今回の接見設定を行ったのだとしたら、個人的には少しは同政権を見直すのだが、そうは全く見えない所が残念でならない。

そんなことをつらつらと考えていたら、時事通信に興味深いニュースが載っていた。それが以下のニュースである。
 【北京時事】中国国営新華社通信が発行する国際問題紙・国際先駆導報は14日、習近平国家副主席と天皇陛下との会見問題について「日本の民主党は戦後政 治の改革を進めており、宮内庁の主張する(会見1カ月前の申し出という)慣例も改革の対象の一つだ」と指摘し、会見を手配した鳩山由紀夫首相を擁護する論 調の記事を掲載した。
 記事の下には、鳩山首相の写真と民主党の選挙スローガンを入れた同紙年間購読の広告を掲載。記事は「(会見問題は)非難す るほどの問題ではない。中国のために慣例を破ろうが、日本のメディアがあら探しをしようが、共通点を求めて相違点を残し、共に発展を求めることこそが中日 外交の最優先事項だ」という見解を日本の世論として伝えた。(2009/12/14-12:43)(出典:時事通信

最後の「日本の世論」とやらはどう考えても中国共産党指導部の見解にしか見えないのだが、そこはさて置き、「今回の異例の天皇接見は日本側が言いだしたから、仕方なくそれに応じてやっているんだ」という、中国内の対日強硬派に対する予防線というか弁解じみたニュアンスを感じてしまうのは、あまりに牽強付会が過ぎるというものだろうか?