2010年10月1日金曜日

第三百四十三段 「尖閣問題」ひと段落して…

発生来、日本世論を激昂させてきた「尖閣問題」、ひと段落がついたと言うか、巻き上げられた塵がやや治まってきた所で、何となく感じたことをつらつらと書き記してみようと思う。

1.中国の意思決定
今回の問題の発端は、尖閣諸島海域で中国漁船が取り締まりにきた日本の巡視船に体当たりした所から始まっている。そして中国側は矢継ぎ早に「閣僚級対話チャネル凍結」、「レアアース対日輸出規制」、「スパイ容疑による日本人拘束」といった一連の処置を繰り出してきた。
こうした一連の処置(甚だしきは漁船体当たりまでも)について、日本の大勢は中国政府の首尾一貫した対日戦略がもたらしたものだと判断して様々の批評を行っている。このような批評には、図のように、

1.各政府機関やマスコミが正確な現場情報を収集し、それが中国政府首脳部や分析機関にあげられる。
2.分析機関はあがってきた情報に基づいて合理的かつ客観的な分析を行いそれを首脳部に提出する。
3.首脳部はそれらを元に中国国益の最大化を念頭に合理的な判断を下し、実行機関に命令を下す。
4.実行機関は首脳部の意図を正確に読み取り、粛々と命令を実行する。

というサイクルが存在するという前提が意識的或いは無意識的に置かれているものと考えられる。

確かに相手国の意志・戦略を推測する上で、こうした機能的な意思決定サイクルを念頭に置くことは、様々の情報を整合的に捉えることが出来ると言う点で有益な面が多い(実際、自分も基本はこのモデルを用いて様々のニュースに接している)。

しかし、「下部機関が正確な情報を上げてくる」、「分析機関は客観的な分析結果を提出してくる」、「最高機関は正確な情報や客観的分析結果に基づいて、合理的な判断を下す」、「実行機関は粛々と上の命令を実行する」といった仮定、どれも組織で働いている或いは働いていた人間ならば、いずれも末尾に(笑)をつけたくなるものばかりではないだろうか?

下部機関は自分たちに都合のよい情報を選り抜いて上に伝え、分析機関は分析なのか希望を述べただけなのかわからない報告を上げ、意思決定部は意思決定部でせっかくの情報や分析結果を無駄にするようなトンマな決断を下し、実行機関は粛々どころか事後の責任追及を恐れて不作為に走ったり逆に上意を忖度するあまりやり過ぎの行動に出たり・・・。

こうした組織の病弊、古今東西を問わずに観察されるものであり、恐らくは(深刻度の程度はあるにしろ)中国政府もまたこの感染者だと考えられる。

してみると、今回の騒動における中国側の行動・決断について過誤やミスの可能性を一顧だにせず、全てが相手の思惑通りに進んでいるかのように考えるのは、あまりに過大評価なのではないかと思う次第。


2.北京式「Show the Flag」の失敗?

今回の一件がまざまざと見せつけたように、日本は周辺国との間に領土問題を有している。それは何も中国との間に限られない。尖閣諸島を巡っては中国の他に台湾とも見解の相違が存在し、竹島については韓国との対立を抱え、「北方四島」について露とはソ連時代からの長い対立を続けている。そんな中で発生したのが今回の一件なのである。

ここで個人的に興味深く感じたのは、中国以外に日本との間で領土問題を抱える国々の中に、一つとして「尖閣問題」に便乗する構えを見せる国が出てこなかったことである。
もし各国が「東アジア地域で完全に中国の優位が固まった」と判断したなら、尖閣問題で中国支持を鮮明にし、併せて自国の領土問題に対する対日強硬姿勢を露わにすることで、中国の歓心を買おうとしてもおかしくはないはずである。

しかし、竹島問題を抱える韓国、中国と同じく「尖閣諸島はわが領土」と主張する台湾は、今回の一件ではほぼ完全に沈黙を貫いた。ロシアは中国との首脳会談の折に「尖閣問題」における中国支持とも見られる言葉があり、メドベージェフ大統領が「北方四島」のうち国後、択捉訪問の姿勢を示したものの、かねてより「平和条約締結の折には返還する」と主張している歯舞、色丹は訪問対象から外し、同時に軍参謀長を日本に派遣するといった具合に、完全に中国寄りの姿勢をとったとは言えない状態である(しかもその後、国後、択捉訪問は”天候などの問題”で延期されている)。

更に視線を南方に移せば、南沙・西沙諸島で中国との領有権争いを抱える諸国の動向は、日本に同情的であったり、或いは日本の同盟国でもある米国との関係強化を加速させたりしている。
ここから浮かび上がるのは、アジア・太平洋地域において意外に孤独な中国の立ち位置である。
無論、こうした中国の孤独や対日領土問題を抱える国の自制が未来永劫続くとは考えられない。周辺国はじっと目を凝らして日中間のパワー・バランスを図っており、その秤が不可逆的に中国優位に傾いたと判断すれば雪崩を打って中国側に肩入れしようとするだろう。

だが現状、日本にとってPoint of No-Return到達までは、まだ猶予があることが明らかになった。日本は徒な兼中感情に身を焦がす前に、以下の賢人の言葉に則り、粛々と布石を打って行けよいのである。

弱者が怒って何になろう。強者はどうして怒る必要があろうか。だから事をなすのに、怒ることは無意味に自分を焼くことだ。 
byサキャ・パンディタ


「敵のイメージ」から出発する者には平和を樹立することはできない。
byヘルムート・シュミット

2010年9月21日火曜日

第三百四十二段 他人の刀で敵を斬る

本日、帰りの電車でうたた寝して見た夢の話なぞ一つ・・・・

甲国ありて胡地を支配すること久し。胡地交通の要衝にして兵家必争の地なれども、住民の性は乱と闘争を好みて治め難し。甲国の宿痾となれり。甲王心労深く、説客を招きて策を求めたり。
甲王「我が国、胡地を治めること久し。なれど住民服せず度々乱をなせり。これ如何せん」
説客「我が兵を引くに如かず」
甲王「不可なり。胡地は治め難しと雖も、通行の要衝たりて狙うもの多し。我が兵退かば、恐らく乙国がこれを征服せん」
説客「臣それを求めたり」
甲王「何ぞや?」
説客「胡地の住民、剽悍にして気性荒く、帰順することを知らず。また乙国は土地を求めること貪欲にして退くことを知らず。もし乙国がこれを攻めれば、必ずや乙国と胡地の住民大いに争い、片方は跡形なく滅び、生き残りし者は大いに傷つくこと必定なり。我が方これに乗じて「旧領奪還」の大義を掲げて進攻せば、敵容易く敗れ、取り戻せし土地には患いなし。これ他人の刀で敵を斬る行いなり」
甲王「良し」

ここで目が覚めた火曜日夜の帰路。
正直夢を見るならこんな生臭さMAXの夢じゃなく、パチュリーさんときゃっきゃうふふの果てに膝枕してもらうとか、そんな夢が見たかったです。安西先生・・・orz

2010年9月20日月曜日

第三百四十一段 外交と内政の狭間

現代中国史の巨人鄧小平氏が1978年に訪日した折の事である。彼は尖閣諸島を巡る日中間の対立について日本人記者から見解を問われた時、以下のように答えている。

「この問題はわれわれと日本の間で論争があり、釣魚島を日本は『尖閣諸島』と呼び、名前からして異なる。この問題はしばらく置いてよいと思う。次の世代はわれわれより賢明で、実際的な解決法を見つけてくれるかもしれない

彼がこのように答え、「尖閣諸島問題」がなるべく日中関係に影響を与えないように抑制された態度を示した背後には、単に日中友好や平和志向といった綺麗事ではなく、ソ連との鋭い対立関係、後進的な国内経済を踏まえて、「経済大国日本との関係安定が中国に利益をもたらす」という冷静な現状認識があったと考えられる。

その鄧小平氏訪日から幾星霜、最早ソ連の存在はなく、国レベルでのGDPでは日本を凌駕するに至った中国(もっとも、国民一人当たりで見た時、あるいは沿海部と内陸部の落差を考えると、単純に「日中逆転」を囃すのもどうかと思うが・・・)は、「尖閣諸島問題」では明らかに鄧小平時代の”抑制”とは一線を画した姿勢を顕著にしてきている。
それが日本の安全保障に与える影響等については、諸賢の方々が大きく取り上げて論を交わしてたりするので、当ブログでは天邪鬼的に安全保障や外交とは別の方向から「尖閣諸島問題」について光を当ててみたい。

ここで話を東海の孤島から一気に北京に移すと、そこでは胡錦濤国家主席の後継を巡るレースが繰り広げられている。
後継についての下馬評については、習近平副主席、李克強副首相、李源潮中央政治局委員等の名が挙がり、中でも習近平副主席がリードしているというのが最大公約数的な所であろう。

しかし、この習近平副主席、昨年12月に訪日して大歓待を受けた(駆け出しの副主席としては珍しく今上天皇との接見まで行った)習近平副主席、この「尖閣諸島問題」では、以下のように実に悩ましい立場に置かれている。

悩ましい習近平副主席の立場

・「尖閣諸島問題」で穏健・抑制的なスタンスを明らかにする。
 →日本側の支持・期待は集められるが、中国国内の政敵に対して「彼はかつての訪日で
   籠絡された」、「媚日的傾向の持主」といった恰好の口撃材料を与えることになる。
・「尖閣諸島問題」で攻撃的なスタンスを明らかにする。
 →中国国内での不満や反論は避けられるが、訪日時やその前後に築いた対日パイプが
   水泡に帰しかねない

穏健、強硬、どちらのスタンスに取るにせよ、何かを守るために何かを失わなければならない状態であり、習近平副主席、「尖閣諸島問題」については極めて動きにくい状態にあると考えられる。

一方で他の後継レースのライバルたる李克強副首相や李源潮中央政治局委員は、今まで日本との接触・馴染みが薄かっただけに、今回の「尖閣諸島問題」では硬軟いずれの立場に身を置くにしろ、習近平副主席に比べれば「日本による籠絡」といった声を気にしなくてよい分、言動の自由部分が大きいと考えられる。

数々の対立点にも関わらず、日中関係の安定がもたらす利益の大きさは火を見るより明らかな所。その安定が損なわれようとしている今、そんな困難な事態の打開に成功した人間が現れた場合、その功績・評価は日本のみならず中国支配層の中でもかなり高まろうと思われる。

そう考えた時、次期主席を巡る競争で一歩リードが伝えられながらも今回の「尖閣諸島問題」では下手に動けない習近平副主席と、そうではないライバルたちの位置関係は、中国の今後を考える上で実に興味深いものがあると言えよう。