2011年3月22日火曜日

第三百四十七段 リビア情勢四つのシナリオ

遂に米英仏を中心とした多国籍軍によるリビア・カダフィ政権に対する空爆が現実のものとなった。

正直、自分は、米英仏の軍事力がアフガニスタンという重荷を抱えていること(米国に関して言えば、東日本大震災にも空母や複数の大型揚陸艦、海兵隊を投入して大規模な支援活動を行っている)、そして極めて抑制的な予算配分による英仏等欧州軍事力の限界、トルコやドイツの反対等を背景に、「空爆実施の可能性はそんなに高くない」と考えていたのだが、それがものの見事に外れた形である。

そんな自分のションボリ予測能力は重々承知した上で、今後のシナリオを4つ考えてみた。

東西分断固定
米英仏を中心とした多国籍軍の空爆によって痛めつけられたカダフィ軍は、反政府派の拠るベンガジの攻略並びに反カダフィ感情の強いとされる東部地域の維持を諦め、首都トリポリを中心とした西部地域の掌握に専念することを決断。
一方、多国籍軍の空爆によって九死に一生を得た反カダフィ軍も、西部で守りを固めるカダフィ軍を打ち破るだけの力は残っておらず、こちらも根拠地たるベンガジを中心とした東部地域の維持に専念することを決断。
こうして飛行禁止区域の設定と多国籍軍による監視の下、リビアは東西に分裂し、両者の対峙状態が続くことになる。

カダフィ政権崩壊(1)
米英仏を中心とした多国籍軍の空爆によってカダフィ大佐自身が死亡する、若しくは多国籍軍の空爆によって勢いを盛り返した反カダフィ軍の反撃の成功などによって、カダフィ政権は崩壊し、反カダフィ派による新統一政権が樹立される。
新政権は民主主義に基づく自由なリビアの誕生を宣言すると共に、旧カダフィ政権下で統治実務に当たってきた人々についても、最大限これを新政権下に引き継ぐ寛容な姿勢を示し、西側諸国の支援を受けつつ、戦乱で荒れた国土の復興に取り組む。

カダフィ政権崩壊(2)
米英仏を中心とした多国籍軍の空爆によってカダフィ大佐自身が死亡する、若しくは多国籍軍の空爆によって勢いを盛り返した反カダフィ軍の反撃の成功等によって、カダフィ政権は崩壊し、反カダフィ派による新統一政権が樹立される。
新政権はカダフィ政権下で統治実務に当たっていた人々に対して大規模なパージを実施すると共に、今までカダフィ政権の地盤となってきた西部地域やその出身者に対して報復的な弾圧政策を行う。
これによって、当初は反カダフィ政権側を支援してきた欧米諸国の間に「新政権の行いはカダフィ政権のそれと変わらないではないか」という幻滅感・反感が広がり、欧米諸国の新政権に対する支援は消滅することになる。
結果、カダフィ政権対反政権派の対立が西部地域対東部地域の対立へと姿を変え、長期にわたる戦乱が続くことになる。

空爆尻すぼみ
当初華々しく始まった米英仏を中心とした多国籍軍による空爆だが、「反対派は叩き潰す」というカダフィ大佐の意志を挫くには至らず、ずるずるとその実施が長引いていくことになる。やがて空爆による市民の被害を強調するカダフィ政権側の宣伝の成功、中東諸国における過去イラク・フセイン政権に寄せられたのと相似したカダフィ同情論の高まり等によって、多国籍軍の空爆に対する内外の支持は急速に退潮していく。
そんな中、遂にカダフィ軍の対空砲火によって多国籍軍兵士に死者が発生し、欧米世論の多数は決定的に空爆反対派と化す。これを受けて、近く(2012年)大統領選を控えるサルコジ仏大統領は空爆停止を宣言。音頭役の仏が降りたことで、多国籍軍も自然消滅。
何とか空爆をしのぎきったカダフィ軍は、反政権派の拠るベンガジの攻略に向けて動き出すのだった。

以上4つのシナリオ(最初の「東西分断固定」は、今回空爆反対にまわった独やトルコ、露中印等の仲介で実現する可能性もある)、その実現可能性について順位を付けることは現時点で難しいが、米英仏の考えを推し量るに、残酷な独裁者の排除がさらに残酷な宗派・地域対立をもたらした「イラクの悪夢」がまだ生々しいことを考えると、多国籍軍が積極的にカダフィ政権崩壊を狙ってくるとは少し考えにくい(無論、それをわざわざ口に出してカダフィ側に安心材料を与えることはしないだろうが)。
かといってだらだらと空爆を続けた末に「空爆尻すぼみ」のシナリオに突入することも望まないだろう(もし仮に当該シナリオが実現し、英仏や米国の軍事力について「張り子の虎」という評価が広まった場合、一部の国々について冒険的な対外政策への心理的ハードルが下がることが予想される。そうなった場合、問題は地中海という一地域を超えた厄介な広がりを持つことになろう)。
そうなると、シナリオ中最初に挙げた「東西分断固定」の実現が多国籍軍の当面の目標となると考えるのが妥当に思える。

過去を振り返ると、コソボ紛争においてNATOが空爆によってセルビアを和平案受諾に追い詰めるまでにはほぼ3ヶ月を要した。さて今回は・・・・?