2011年3月26日土曜日

第三百四十九段 憧れの津軽海峡航路

津軽海峡のイメージというと、マグロやイカと言った海産物、「津軽海峡冬景色」に代表される荒涼とした風景を思い浮かべる向きも多いかと思われる。
しかし、そんなイメージとはまた別に、竹村慎治、赤倉康寛両氏の論文「東アジア-北米航路コンテナ船の日本周辺での通航海域に関する分析」によれば、 最近、津軽海峡を通じて東アジア(主に韓国や中国)と北米(主に米国やメキシコ)を結ぶ航路(以下「津軽海峡航路」と表記)が発展してきているという。

同論文は、津軽海峡航路の発展の要因と利用状況について以下のように記している。

<津軽海峡航路発展の要因>
・韓国釜山港のハブ機能強化
・中国北部の急速な経済発展

<2009年時点の津軽海峡航路利用状況(カウント対象はフルコンテナ船のみ)>
・日中韓台から北米へ:1059隻
 内訳:韓国764隻、中国北部232隻、中国南部26隻、台湾37隻、日本0隻
・北米から日中韓台へ:739隻
 内訳:韓国449隻、中国北部82隻、中国南部25隻、台湾160隻、日本23隻

このように津軽海峡が海上交通のハイウェイとして活況を呈しているのを見る時、気になるのが北朝鮮の羅先港である。
(以下の地図にて赤四角で表示)
後背地として鉱物資源等が豊かな露極東部やモンゴル、古くからの重工業地帯にして中国政府が振興に力を入れるマンチュリアを控えていること、そして上述のように近年活況を増している津軽海峡航路へのアクセス等、地の利は極めて良好である(因みに、あの石原莞爾も羅先港について「真に東亜における第1の天然の良港である」と評し、満州経営の中核的役割を担う港湾として、同港に期待していた)。

実際周辺国の注目度も以前から高く、今年になってからは、「中国が吉林省の石炭を羅先港から出荷」「中国軍、港湾警備等を目的に先特区に駐屯」といったニュースも報じられている(なお、「羅先への中国軍進駐」というニュースについては、後日、中国側がこれを否定する公式声明を出している)

一方で、羅先周辺(というよりも日本海周辺)に設置されている各国軍の基地という存在を考えると、津軽海峡航路が今後も活況を維持し、そこに羅先港もアクセスできるか否かは、北朝鮮とそれを取り巻く各国の安全保障政策に大きく左右されると考えられる。

だが、こと北東アジアの安全保障環境において、WMD開発や恫喝的な外交姿勢といった諸問題(日韓の場合、更に自国民の拉致問題や離散家族問題も加わる)、決して絵空事ではない政権崩壊に伴う混乱の可能性等等、北朝鮮から伸びる毒棘はいずれも頑固で根が深い難題として周辺国を悩まし続けている。

そんな諸々の毒棘を解除・回避し、羅先港と津軽海峡航路を結びつけ、低廉な労働力や豊かな鉱物資源という利点を有する北朝鮮を国際経済により強く押しはめることによって、自国の経済的利益と北朝鮮のソフトランディングという安全保障上の要請を両立させる智慧を見せるのが、中韓米日、どの国になるのか? 実に興味深い所である。


参考文献
・竹村慎治、赤倉康寛 「東アジア-北米航路コンテナ船の日本周辺での通航海域に関する分析」 2010年9月
・朝鮮日報 「中国、北朝鮮・羅先港経由で石炭積み出し」 2011年1月
・朝鮮日報 「中国軍が北朝鮮・羅先特区に駐屯、港湾施設など警備」 2011年
・船橋洋一 「青い海をもとめて」 2005年11月 朝日新聞社