2011年4月13日水曜日

第三百五十四段 こんな時にルック・ウェスト

東日本大震災発生から早1ヶ月。その間発生した福島第一原発の損傷、並びに、それに対する国や東電のお世辞にも信頼感や安心感を与えるといった所から何万光年も遠いあたふたぶりによって、原発に対する反感や懐疑論が急速に高まっている。

その是非はここでは論じないが、「日本国内の原発は全て廃炉」が実現し、その上、「廃炉とした原発から除去した核燃料等の保管場所も無事決まった」という原発反対派の多くが掲げるゴールに到達した時、本当に日本は原発による諸問題から解放されて、安閑と太平楽を楽しめるような状態になるのだろうか?

それは少し違うような気がする。確かに日本全国の原発を廃炉にすれば、福島第一原発の半径20~30km圏内で見られるような事態は、今後なくなるだろうし、それはそれで意義あることであろう(その代償に、どれだけの経済的便益とそれを基盤とする公共の福利が消失するかは知らないが)。しかし、原発やそれに付随して発生する問題点というのは、何も日本にのみ存在するものではない。

以下の地図に示すように、日本の周辺で原発(核開発)と無縁な国はあんまりないのが現状である。


地図上に示した各国の核関連施設は以下の通り。

韓国(緑四角で表示)
1.蔚珍原発
2.月城原発
3.古里原発
4.霊光原発

北朝鮮(灰色四角で表示)
1.寧辺:再処理・核燃料施設等
2.亀城:ウラン精錬施設
3.博川:ウラン精錬施設、ウラン濃縮疑惑施設
4.天魔山:ウラン精錬施設、ウラン濃縮疑惑施設
5.平山:ウラン精錬施設
6.下甲:ウラン濃縮疑惑施設(地下)
7.嶺底里:ウラン濃縮疑惑施設

台湾(黄色四角で表示)
1.第一原発:新北市石門区
2.第二原発:新北市万里区
3.竜門原発:新北市貢寮区
4.第三原発:屏東縣恆春鎮

中国(赤四角で表示)
1.泰山原発:浙江省
2.田湾原発:江蘇省
3.広東大亜湾原発:広東省
4.広東嶺澳原発:広東省
※以下は建設中のもの
5.三門原発:浙江省 2013~14年運転開始予定
6.海陽原発:山東省 2013~14年運転開始予定
7.陽江原発:広東省 2013~14年運転開始予定
8.紅沿河原発:遼寧省 2012~14年運転開始予定
9.寧徳原発:福建省 2013年運転開始予定
10.方家山原発:福建省 2013~14年運転開始予定
11.福清原発:福建省 2013~14年運転開始予定
12.台山原発:広東省 2013~14年運転開始予定
13.海南昌江原発:海南省 2014~15年運転開始予定
14.広西白龍原発:広西壮族自治区 2015年運転開始予定
※以下は原発以外の核関連施設(予定含む)
15.宜賓核燃料加工工場:四川省
16.蘭州原子力施設群(濃縮、再処理施設等):甘粛省
17.嘉峪関商業用核燃料再処理施設(予定):甘粛省
18.包頭核燃料加工工場:内モンゴル自治区

上記4カ国に加え、地図には示さなかったが、もっと南のベトナムやタイ、マレーシア、インドネシアにも原発建設計画があり、各国は「フクシマ」発生後も「自国の原発政策は推進で変更なし」 という姿勢を維持している。若干の不確定性があるとはいえ、東南アジア諸国の原発建設計画が変更なく実現すると仮定すると、早晩日本は、朝鮮半島からジャワ島に至る原子力施設群の三日月に覆われることになる。こうした状況に風向き・海流・台風といった要素を考え併せると、日本一国のみが「原発全廃」を打ち出し実現したとしても「核リスクフリー」の地位はまだ遠い所にあると考えざるを得ない(ここでは詳述しないが、やや毛色の違う問題として周辺国の核戦力というファクターもあったり)。

従って、もし本気で日本が「核リスクフリー」を目指そうとするならば、自国のみならず、周辺国を巻き込んで原発・核開発の縮小に踏み出す必要があると考えられる。

しかしエネルギー、とりわけ原子力は、その開発(軍民問わず)の歴史においてテクノ・ナショナリズムや安全保障といった、日本国にとってなじみの深い経済的合理性や人命尊重という物差しとはまた別種の評価軸とも深く結びついてきた分野でもある(テクノ・ナショナリズムはそうでもないか・・・)。

不慣れなテクノ・ナショナリズムや安全保障を議論の射程に収め、明白かつ巨大な理と利に裏付けられた説得的な「脱原発戦略」を打ち出し、それを相手国に受け入れてもらう。そんな芸当が今の日本国に可能だろうか? そして日本社会はそれを可能とする人材を輩出できるのだろうか?

外政における日本の行政府や立法府、並びにその母体たる社会の今までの振舞いを鑑みるに、上記の疑問の答えは現時点では極めて否定的なものとならざるを得ない。恐らく、日本国並びにその社会は、自国の原発動向如何とは無関係に、「周辺国の核リスク」を一つの潜在的懸念点としつつ今後も生き続けていくことになるだろう。

なんてことをグダグダ書いてたら、2011年4月14日、「中韓が原発の安全確保等について協力強化で合意」とかいう報道があった。「蓋し健全な警戒感の発露であるなぁ・・・」としみじみ思われることである。

参考資料
・郭四志 「中国エネルギー事情」 2011年1月 岩波書店
・国別情勢研究会 「ARCレポート 台湾 2010/11」 2010年10月 ARC国別情勢研究会
・朝鮮日報(英語版) 「Seoul, Beijing to Strengthen Nuclear Safety Cooperation」 2011年4月14日
・日本原子力研究開発機構 「原子力海外ニューストピックス2010年第6号」 2010年12月
・日本原子力研究開発機構 「原子力海外ニューストピックス2010年第2号」 2010年4月
・東アジア貿易研究会 「ARCレポート 北朝鮮 2006」 2006年11月 世界経済情報サービス
・東アジア貿易研究会 「ARCレポート 北朝鮮 2007」 2007年11月 世界経済情報サービス