2011年5月11日水曜日

第三百六十一段 巽感あり

中国の海外基地・軍事施設設置の動きと言えば、西沙・南沙諸島からミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンに至る各国・地域での港湾・通信傍受施設等獲得・設置の動き、所謂「真珠の首飾り」政策が有名である。
しかし中国、ユーラシア大陸辺縁部に拠点を求める従来の「真珠の首飾り」政策の他に、もう少し太洋側に出張った形での港湾等確保も狙っているようである。

まず、今年1月3日付のインドネシア英字紙The Jakarta Postが、最近ガス田開発の動きが活発なニューギニアに中国大使が中国企業9社の幹部を伴って来訪し、ソロン、ビアク、ジャヤプラ、マノクワリ、ティミカにおける港湾及び空港の整備に強い関心を示したことを報じた。
当該案件については、その後目立った続報もなく、先月末に行われた温家宝首相のインドネシア訪問で何らかの動きがあるかと注目していたが、それも特に無かったようである。
ただし、西沙・南沙諸島の領有権を巡って複数のASEAN加盟国と対立を抱える中国が、直接の領有権対立を抱えず且つASEAN議長国のインドネシアと海洋協力委員会設置で合意したことは注目される。

続いては、時事通信が今年5月11日に豪紙報道として伝えたもので、「中国が2007年暮れに東ティモールに対してレーダー施設の設置(しかも建設や運営費の全てを中国側負担で)を持ちかけるも、東ティモール側の拒絶にあっていた」というものである。

左地図を見れば一目瞭然だが、ニューギニアといい、東ティモールといい、今まで「真珠の首飾り」政策の一環として中国が権益確保に動いている(或いは確保した)とされてきた港湾等施設に比べて、かなり大洋側に出張った地域での港湾等施設の権益確保行動だと言える。

また面白いのが、中国の安全保障面における有力なライバルたる日米同盟との地理的関係である。

まずニューギニアだが、歴史的に見ると太平洋戦争においてフィリピン-台湾-沖縄という進撃ルートの開拓を狙う米軍とそうはさせじとする大日本帝国軍が激しく戦った場所である。
そして現代においては豪州と日本を繋ぐ海路がすぐ北を通り、海上自衛隊が重視するTGT三角海域の底辺を窺う地域となっている。斯様な地勢を鑑みれば、当該地域の港湾・空港設備増強に寄せる中国の関心が、ガス田開発や物流・交易拠点といった経済上の必要性のみによって発生したものとはやや考えにくい。

そして中国がレーダー施設設置を申し入れて拒否された東ティモールだが、そのすぐ対岸には豪大陸ダーウィンが存在する。奇しくもこのダーウィン、安全保障問題に造詣の深いジャーナリストとして知られるロバート・カプラン氏が米国の外交専門誌「Foreign Affairs (2010 May / June)」等にて「米国が中国の海洋拡大を牽制する上で有望な拠点足り得る」と指摘する地でもある。
となれば、中国の「東ティモールへのレーダー基地設置」に向けた働きかけも一度きりで終わるとは、こちらもやや考えにくいものがある。

「中国の海洋進出」と聞くとどうしても領有権争いやオイルロードの絡みで南シナ海やインド洋方面に目が向きがちだが、そればかりに気を取られていると、東南方向のインドネシア東部、東ティモール、そしてパプア・ニューギニア(今の所目立った動きは報じられてないが)で起きている事態を見過ごしてしまう危険性があるのかもしれない。


参考資料
・AFP 「E.Timor snubbed China radar over spy fears: report」 2011年5月9日
・Robert D. Kaplan 「The Geography of Chinese Power」 Foreign Affairs, May / June所収 Council on Foreign Relations 2010年6月
・The Jakarta Post 「China to build seaports and airports in Papua」 2011年1月3日
・時事通信 「海洋協力委設置へ=中国とインドネシア」 2011年4月29日

<2011年11月12日追記>
時事通信社の2011年5月11日「東ティモールにレーダー=中国が提案、拒否される‐豪紙」が削除されていたため、これを参考資料から外し、ほぼ同内容を伝えるAFPの「E.Timor snubbed China radar over spy fears: report」を改めて参考資料として追加したもの