2011年6月11日土曜日

第三百六十六段 羅先と済州島と・・・

最近、近所のコンビニで「三多水」(2リットル・ペットボトル)という水が売られるようになってきた。ラベルの情報を見ると、韓国の済州道特別自治道開発公社が製造してそれが輸入されているようである。

そんな済州島産「三多水」の「三多」とは何かというと、古来より済州島には石と風と女の三つが多いと称されてきたことから出た言葉である。
同島は元々が火山島であったため、それに起因して火山岩が多く、かつ台風や季節風の通り道に当たるため、強風の日が多く、男は働き場所を海に求めるも海難に遭うことが稀ではなかったため、陸上では男より女をよく見かけるという時代が久しく続いたため、このように称せられたのだという。

火山岩だらけであまり農業には適さない土地を抱え、自然と海に目を向けざるを得なかった往時の島の生活を彷彿とさせる言葉だが、見方を変えればこの島は、日本と朝鮮半島、そして中国大陸を繋ぐ海路に睨みを利かせるには絶好の地点に位置するということから、多くの海上勢力の根城ともなってきた場所でもある。

例えば、13世紀になってモンゴル帝国による高麗王朝への侵攻・支配が始まると、モンゴルを新たな支配者と認め、これとの関係を強化することで自勢力の立場を強化しようとした王氏(ややこしいが、高麗王朝の王家)とそれに反発する武臣勢力との対立が深まる中、武臣勢力は各人の私兵を中核に漁労等に従事する賤民を糾合して「三別抄」という軍事組織を結成し、済州島を根拠地としてモンゴルに抵抗を続けた。
三別抄の水軍に手を焼いたモンゴル・高麗連合は、三別抄と幾多の戦いを繰り広げる一方で自らも水軍力の強化に努め、遂に1273年、三別抄の根拠地たる済州島を攻め落とすことに成功する(モンゴルによる日本侵攻、所謂「文永の役」はこの1年後)。そして三別抄後略後、島が高麗と南宋を繋ぐ海上航路を扼すに恰好な位置にあること、地形・環境が馬群の放牧に好適であることを重く見たモンゴルは、これを直轄地としたのだった。
やがて14世紀に入り、ユーラシアを広く覆うに至ったモンゴル帝国に大規模な寒冷化が襲いかかるや、ユーラシア極東部も日本列島においては鎌倉幕府滅亡と南北朝動乱の始まり、朝鮮半島にあっては高麗内部の親モンゴル派と反モンゴル派の対立激化から反モンゴル派有力者李成桂による李朝建国、中国大陸にあってはモンゴルに対する反乱の頻発から朱元璋による明王朝建立という大規模な政治的動乱が相次ぎ、結果、東シナ海を中心とする海域の無秩序化が進行していく。そんな中で各地域の商人や兵士、漁労民等が「倭寇」と呼ばれる武装海上勢力を形成して貿易や沿岸地域への略奪等に乗り出していくことになるが、その倭寇の根拠地の一つもまた済州島だったのである。

以上のような歴史を有する済州島に、韓国が昨年から新たな海軍基地建設を進めている。中央日報紙が昨年報じている所によれば、以下の通り。
敷地の選定と妥当性をめぐる5年間の議論の末、07年5月、西帰浦市大川洞(ソギポシ・デチョン)江汀(カンジョン)村を候補地に決めた。その後、江汀浦の東側52万平方キロに2014年まで約1兆ウォン(約750億円)を投資し、戦略機動艦隊基地を建設する計画が発表された。艦艇20余隻と15万トン級クルーズ船舶2隻が同時に係留できる「民・軍複合型観光美港」として建設するということだ。

この新基地建設について、今年5月31日になってから北朝鮮が噛みついている。以下に引用する5月31日付労働新聞記事がそれである。(以下に引用した日本語訳は、朝鮮通信社が日刊で出している「朝鮮通信 No.16157」による。なお赤太字は著者による)
南朝鮮かいらい軍部当局が済州道西帰浦市の江汀洞に新たな海軍基地の工事を行っている。
昨年1月から始まったこの海軍基地建設が完工した場合、そこにはかいらい陸上支援戦隊と空軍探索部隊をはじめ軍種共同作戦に必要な武力が配置され、かいらい海軍の第7機動戦団がこの基地を母港に利用し、いわゆる「支援」と海上交通路(シーレーン)の統制などを基本任務として遂行するという。
昨年、謀略的なチョンアン(天安)事件を口実にかいらい当局がわれわれの船舶の済州海峡通過を阻む措置を取ったのに続き、かいらい海軍の第7機動戦団は朝鮮東・西海と太平洋上で米帝侵略軍との合同の下、わが共和国に対する海上封鎖演習と海上射撃訓練等などに狂奔した。昨年10月に釜山沖合で行われた「大量破壊兵器拡散防止構想」(PSI)関連の海上封鎖・捜索訓練と楸子島および欲知島付近でのかいらい海軍の海上機動訓練など、済州島周辺では反共和国火遊び騒動が相次いで行われた。これを通じても、南朝鮮好戦狂が済州海軍基地の建設を強行する理由が反共和国海上封鎖をさらに強化し、北侵戦争準備を進めるところにあることがよく分かる。
南朝鮮当局が済州島に海軍基地の建設を強行する理由はそれだけにあるのではない。保守当局は、済州海軍基地を米帝のアジア制覇戦略実現の前哨基地に委ねようとしている。
済州島が平澤と仁川、群山、光州を結ぶミサイル防衛(MD)システム構築の主な対象地の一つとされており、済州島に新設される海軍基地に原子力空母をはじめ米軍艦船の停泊まで見越している事実がそれを実証している。
米国は、海外侵略をさらに強化するための南朝鮮占領米軍の「戦略的柔軟さ」の実現において済州島を地理的にアジア太平洋地域のどこの国にも進出できる重要な拠点と見なしている。従って、米国は「同盟」の看板の下にかいらいを基地建設に駆り出しており、かいらいもまた、この機会に主人を後ろ盾にして公海上へと作戦半径を広げる条件を整えようとしているのである。
現在、米国内でまで済州海軍基地が米国の海洋制覇のための軍事的足場であって、東アジア諸国の海上輸入通路を統制してそれらの国を圧迫する手段に活用するであろうという世論が流れており、外電も基地の建設によって一層高まる軍事的緊張状態に対して大きな不安と懸念を隠せないでいるのは、決して偶然ではない。
これらの事実は、全同胞と世界の平和愛好人民の志向にはお構いなしに朝鮮半島の平和と安定を脅かし、戦争策動に明け暮れる米帝と南朝鮮かいらいの侵略的正体をことごとくあらわにしている。
現在、南朝鮮各界では済州島の人民の生のよりどころを侵略戦争の前哨基地に委ねようとする保守当局の策動を峻烈(しゅんれつ)に断罪、糾弾し、工事を直ちに中断するよう求める声が高く響き渡っている。
我が民族は、同族対決に狂奔して人民の生のよりどころを外部勢力の侵略戦争戦略実現のいけにえにささげようとする南朝鮮保守一味の事大・売国的行為を絶対に許さないであろう

いつも通りツッコミどころ満載のアジ文体だが、赤太字部分だけを見てもらえれば分かるように、要するに北朝鮮は、現在、韓国の済州島新基地によって自身の海上交通が阻害される可能性に敏感になっているようだ。
「何をいまさら」という気がしないでもないが、朝鮮総連サイト等で最近の北朝鮮政府が日本海側の港湾都市羅先の開発に前向きな姿勢を示していると報じられていること、そして羅先の地理的な配置を頭に入れた上で、韓国の済州島海軍基地新設に対する北朝鮮の反発を報じた上記記事を改めて読めば、北朝鮮の「羅先開発の芽が済州島基地で扼殺されてはかなわん」という焦り、裏返せば北朝鮮政府の羅先開発に対する本気度を垣間見ることができるのではないか。
そして以下の地図に明らかなように、羅先が港湾都市として発展できるか否かは、北朝鮮が津軽海峡と対馬海峡を押さえる日本、朝鮮海峡を押さえる韓国、そしてその両国共通の同盟国にして最強の海軍力をアジア太平洋地域に展開する米国との間で如何な関係を構築するかに懸ってくることも考慮するならば、羅先開発に対する北朝鮮の熱意は、ひょっとすると日本の対北外交にとって有利なカードを提供するものなのかもしれない。


<参考資料>
・在日本朝鮮人総聯合会 「豆満江流域 東北アジアの物流拠点に」 2011年6月3日
・中央日報 「【社説】済州海軍基地、これ以上遅らせることはできない」 2010年12月16日
・朝鮮通信社 「朝鮮通信」No.16157 2011年6月2日

<当ブログ内関連段>
・「第三百五十三段 北朝鮮トランスポート」
・「第三百四十九段 憧れの津軽海峡航路」