2011年6月15日水曜日

第三百六十八段 東電原発補償問題でふと思ったこと

2011年3月11日に発生した東日本大震災によって引き起こされた原発災害だが、その補償責任を事故を起こした原発を建設・運営していた東京電力にどのように負わせるかについて議論が続いている。

その法律的枠組みや株主責任、債権者保護といった様々の問題点・注目点については諸賢がこれまた様々な観点から論じている所でもあり、ずぶの素人に過ぎない自分が生半可な知識をひけらかして自ら恥をかくことだけは避けたいのだが、それでも少し気になったことがあったので、多少の失笑は覚悟の上で記してみたいと思う。

その気になったこととは何かというと、「現在東電に起きているような事態が、将来、青森県大間原発(現在、電源開発によって建設が進められている)で生じたら?」ということである。

左記地図から明らかなように、大間原発(建設予定地)を中心とした半径30kmの円を描くとその範囲は津軽海峡を超えて対岸の函館市にまで及ぶことになる。

ここで注目したいのが、その津軽海峡の存在である。
そもそも津軽海峡は日本の領海となっている範囲が、冷戦時代の外交的配慮の影響で通常の12海里ではなく3海里にとどめられており、その中心部分は諸外国の艦船(軍艦含む)が自由に往来可能な公海となっている。
かつては「公海」ということで米ソ海軍の水上艦や潜水艦が激しく行き交ったこの海峡は、今、中国や韓国、台湾と北米を結ぶ重要な航路として台頭しているのだ。

さて、そこで大間原発が稼働し、そこから更に多くの不幸・ミスが積み重なった末に福島県で発生したような原発事故が発生したらどうなるか?

津軽海峡一帯に住む日本国民への被害は勿論、津軽海峡を行き交う中韓台等の船舶にも放射能汚染や乗員への健康被害といった問題が発生してくる可能性は高いし、もし津軽海峡が一時的とはいえ航行不可となった場合には日頃同海峡を利用していた各国海運企業にそれなりの逸失利益や航路変更に伴うコスト増が降りかかることになると予想される。こうした事態に対して当然各国は日本政府に対して相応の補償を要求してくるだろう。

東電の問題は加害者、被害者共に日本国内でほぼ完結している。だがそれでも、その補償範囲の画定や金額の策定等について当局や関係者の間で激しい議論や困難な交渉が行われている。
大間原発にもし事あれば、それが外国(しかも幾つかの国については歴史的な因縁や外交・安全保障上での対立も抱えている)をも巻き込んだ形で再現されるのである。
しかも補償交渉を進めていく上での台湾の扱いが、1972年の日中国交正常化以後の日中関係を規定してきた「一つの中国」政策との兼ね合いも絡んで、日中台間の交渉を一層複雑化させることも想像に難くない。
更に補償交渉が長引けば、中韓台の世論で「事故を起こして真面目に補償金を払おうとしない日本はけしからん!」といった具合に日本への反発が高まる可能性もあろうし、それがマスコミによって日本に報じられることで、今度は日本側に「あいつらは言いがかりにも等しい補償をふっかけてきてけしからん!」という世論の怒りを掻き立てることも考えられる。

そうなった時、アジア太平洋地域の安全保障環境に全く影響を与えないまま事態が推移するとは少し考えにくいものがあろう。

以上が東電原発補償問題に係る報道や論説を見ていて心に浮かんだ「気になる点」である。

<注記>
無論、青森大間と福島とで地震や津波の発生確率やそれが原発に及ぼす危険性が全く同じというわけではないこと、そして今回事故を起こした福島第一原発(1976年稼働)と現在建設中の大間原発の間にある安全面での技術革新の差といったものは承知しており、大間原発の建設を進めている電源開発も東日本大震災で露わになった問題点に全く無関心だとは個人的には思っていないが、そういった要素をあえて無視した一種の思考実験として、当段に記したような事態を考えてみたものである。

<当ブログ内関連段>
・「第三百四十九段 憧れの津軽海峡航路」