2011年6月19日日曜日

第三百七十段 羅先、出口か迂回対象か?

去る2011年6月14日、朝鮮半島を取り巻く海運に事情に関して二つ興味深いニュース報じられていた。

一つは、聯合ニュースが報じた以下のニュース。
【ソウル聯合ニュース】北朝鮮が北東部にある羅津港の第2埠頭をスイスに賃貸したことが分かった。北朝鮮経済に詳しい消息筋が14日に伝えた。
 第2埠頭はこれまで北朝鮮が独自に運営すると明らかにしていたが、一転してスイスに賃貸することになったという。賃貸の期間や具体的な契約条件については明らかになっていない。
 羅津港については、昨年3月に第1埠頭を中国に10年間賃貸する契約を結んだ。同じころロシアとも第3埠頭の50年間賃貸契約を結んだとされる。
 同消息筋は、中国の政府当局者から聞いた話として、第4~第6埠頭については、さまざまな国と賃貸についての協議を進めており、中でも欧州の国や企業との経済関連議論が活発に行われているという。
北朝鮮とスイスは定期的に政治的な交流を続けており、朝鮮中央通信は13日にスイス外務省の代表団が2年ぶりに訪朝したと伝えた。
 この消息筋は、羅津だけでなく8日に着工式があった黄金坪島の経済特区についても欧州連合(EU)の多数企業が進出を予定していると話した。
 韓国・中小企業銀行経済研究所のチョ・ボンヒョン研究委員は「北朝鮮は昨年末から欧州やアラブ圏からの投資誘致を積極的に進めている。中国への過度な依存を弱められるほか、経済制裁は効果がないということを誇示する効果を狙ったもの」と分析している。

件の羅津港は近接する先鋒港と並んで羅先自由貿易地帯を形成しており、「朝鮮貿易年報2009」や「北朝鮮経済の現状と今後の展望」、「平成21年度北朝鮮の経済動向分析調査-北朝鮮経済総覧-」、ARCの2006年、2007年「北朝鮮レポート」によれば、以下のような能力・特徴等を有する港湾だとされてきた。

1.水深12m ※深さだけで見れば3万DWTの船舶が寄港可能。
2.荷役能力300万トン
3.韓国・釜山との間に定期航路あり。
4.取扱貨物としては石炭や肥料、原木等が多い模様。
5.2004年にはクレーンやコンテナヤードの改修が行われている。
6.第3、第4埠頭について中国が50年間の使用権を獲得していると言われてきた。

このうち、埠頭の他国への開放状況については、上記記事に基づけば以下のように修正されることになる。

・第1埠頭:中国に10年間の貸借。第2埠頭:スイスに貸借(期間不明)。第3埠頭:ロシアに50年間の貸借。第4~6埠頭:他国と交渉中

そして、羅先開発にとみに前向きな姿勢を示している北朝鮮政府が、韓国軍の済州島基地新設に神経を尖らせているらしいことは、当ブログで以前触れた通りである。

そんな羅先開発を進めていく上で一つ重要な要素が、北朝鮮の後背に控える中国・東北地方の存在である。だが、「中国東北地方にとっての海への出口」という羅先地区のアドバンテージを突き崩しかねない動きも現れてきた。

それが二つ目に取り上げるニュース、コスコ・コンテナライズジャパンのサイトに設けられている「新華社中国物流最新ニュース」に掲載された以下の記事である。
貨物船「永合号」が10日、吉林省琿春市から韓国の釜山港に向けて出港した。中国、ロシア、韓国を結ぶ陸海連絡輸送航路の琿春-釜山間での初就航となり、東北アジア地域の経済を発展させる「黄金水路」が正式に開通した。
 「永合」号は8日、ロシア・ザルビノ港を出港。これまでは、貨物を同市から陸路でロシアまで輸送していた。
 同市航務局の初鉄成・副局長は、釜山港は世界で重要な国際中継港であり、欧州諸国や日本の多くの小型港との間で航路を就航させ、欧州や日本への貨物輸送が便利であるため、今回の航路の就航は、豆満江地域内の国と世界各地との経済貿易の門が開いたに等しいとの見解を示した。
【新華社長春】

繰り返しめいてしまうが、中国東北地方とのリンケージを利点の一つとして掲げて外国の投資を呼び込もうとしている北朝鮮・羅先にとって、その中国東北地方の琿春と釜山とを直結する輸送経路が登場したことは、自らの強みが一つ霞んでしまったことを意味している。この動きが果たして、北と南を競わせることで東北地方の開発に有利な条件を引き出そうとする中国政府の意図によるものなのか否か、それとも北朝鮮との国境地帯にAH-64やATACMSの配備を進める韓国の対北外交攻勢の一環なのか否か、或いはそんな中韓両国の意図が上手く噛み合った結果の産物なのか、実に気になることである。

そして気になることがもう一つ。スイスと言えば、世界最大規模の商品取引企業にして自らも資源権益確保を行っているグレンコアやその傘下の資源大手エクストラータが頭に浮かぶが、今回の北朝鮮とスイスの羅津埠頭貸借がまとまったことをキッカケとして、今後、彼らが各種金属資源について有望な鉱脈を複数有するとされる北朝鮮での資源開発に乗り出してくるのか否か、こちらも大変に興味深い所である(無論、ハードルは政治的にもインフラの整備状況といった面でもかなり高そうだが・・・・)

参考資料
・WTS 「朝鮮貿易年報2009」 2009年10月
・コスコ・コンテナライズジャパン 新華社 「中露韓陸海連絡輸送航路で琿春-釜山間が開通」 2011年6月14日
・聯合ニュース 「北朝鮮、羅津港の2号埠頭をスイスに賃貸」 2011年6月14日
・東アジア貿易会 「ARCレポート 北朝鮮 2006」 2006年11月 世界経済情報サービス
・東アジア貿易会 「ARCレポート 北朝鮮 2007」 2007年11月 世界経済情報サービス
・東アジア貿易研究会 「北朝鮮経済の現状と今後の展望」 2010年3月
・東アジア貿易研究会 「平成21年度北朝鮮の経済動向分析調査-北朝鮮経済総覧-」 2010年3月

<当ブログ内関連段>
・「第三百六十六段 羅先と済州島と・・・」
・「第三百五十三段 北朝鮮トランスポート」
・「第三百四十九段 憧れの津軽海峡航路」