2011年7月18日月曜日

第三百七十七段 中東一帯の原発動向

増え続ける電力需要対応への切り札とされながら、福島第1原発事故以来、建設見直しや建設計画続行等各国ごとに様々な動きの出てきた原発について、特に中東の最近の動向についてまとめてみようかと思う。


イラン
・ブシェール原発(地図中黄色四角1)
1号機が完成済み。建設計画の発端は、70年代の王制時代まで遡る。ドイツKWU設計を基礎として露アトムストロイエクスポルト(以下ASEと表記)が建設した。炉の形式はVVER-1000で出力は1000MW。本来は99年稼働開始予定だったが、技術的な問題に加え、所謂「イラン核兵器開発疑惑」も絡んで度々の遅延が発生し、現在では運転開始は2011年8月からとされている。
・イラン核兵器開発疑惑
イラン政府は自国の核開発について一貫して「民生目的」である旨を主張しており、「何故ガスや石油が豊富なのに原発が必要となるのか?」といった疑問については、「ガスや石油を外貨獲得手段に特化させるため、国内電力需要を原発で補おうとしているのだ」という旨のそれなりに筋の通った説明をしている。
ただし、欧米諸国やイスラエル等に対する攻撃的な言辞、国際的に「テロ組織」と見なされているヒズボラやハマスとの関係、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル戦力の拡充といった要素から、各国の「イランは核兵器を保有しようとしているのでは?」という懸念を解くには至っていない。
なおイランの核関連施設の分布については、以前著者が作成した地図を参照頂きたい。

UAE
・ブラカ原発(地図中黄色四角2)
建設を巡って日立GE、アレバの二社に加え、韓国電力公社、サムスン・エンジニアリング、現代建設、斗山重工からなる韓国連合が入札に参加するが、最終的には韓国連合が落札した。契約内容としてはARP-1400炉4基(出力は1基当たり1400MW)の建設、引渡、燃料供給を200億ドルで提供する他、60年の共同運転サービスを200億ドルで提供するものと推定されている。1号機の稼働開始は2017年が予定されている

ヨルダン
・マジデル原発(地図中黄色四角3)
今後30年内に1000MW級商業炉4基を建設する計画を立てている。建設予定地は当初は南部のアカバ近郊とされていたが、最近アンマンから40kmほど北に向かう同地に変更された(注1)。1号機については2013年着工と2018年運転開始を見込んでいる。現在、建設受注を巡って三菱重工・アレバの日仏連合、ASE、カナダ原子力公社を中心としたカナダ連合の三者が争っている。当初は日仏連合が優位に交渉を進めているとされてきたが、東日本大震災に伴う福島第1原発事故の影響で日本政府の「原発輸出」方針に揺らぎが生じている。これに危機感を覚えたヨルダン側は日本に対して「早急な原子力協定締結の早急な承認」を求める等しているが(注2)、この求めに日本が応じる可能性は低いと考えられ、他陣営にとっては逆転の余地が生じてきた感がある。
なお、湾岸諸国とは対照的に化石燃料には恵まれてこなかったヨルダンだが、最近になって有望なウラン鉱脈が存在することが判明し、昨年にはアレバが同国政府からウラン採掘権を獲得している(注3)。

エジプト
・エル・ダバア原発(地図中黄色四角4)
当初予定では2025年までに1000MW級商業炉4基の建設、1号機の運転開始は2019年とされ、日仏露中韓企業が応札に関心を示していた。一時は「原発建設は露、技術者訓練については米仏中韓企業がそれぞれ受注の見込み」とも報じられていたが(注4)、2011年1月のムバラク政権崩壊後は計画が停滞しているようである。

トルコ

・アックユ原発(地図中黄色四角5)

・シノップ原発(地図中黄色四角6)
地中海沿岸のアックユ原発については露ASEが建設を受注した。AES-2006炉4基を建設予定(1基当たり出力は1150MW)。1号機の運転開始は2017年を予定している。
黒海沿岸のシノップ原発建設計画については、当初韓国電力公社が受注すると見られていたが、結局価格交渉等で折り合いがつかずに韓国電力公社は当該案件から撤退。それを受けて東芝が新たな受注有力候補として浮上するが、今年7月14日になって日本政府が「ブラジル、インド、南アフリカ、UAE、トルコと進めている原子力協定締結交渉を凍結する」方針を示したこともあって事態は未だ流動的である(注5)。
なお「原子力年鑑2011年版」によると、トルコは他に黒海沿岸のイグネアダという場所での第三の原発建設を検討しているとの由。

アルメニア
・メタモール原発(地図中黄色四角7)
・ギュムリ核燃料サイクル施設(地図中黄色四角8)
メタモール原発はアルメニア首都エレバンから西方30kmに位置する。旧式のVVER-440炉2基からなる(出力は1基当たり40.8万KW)。1988年の大地震を機に89年に2基とも閉鎖されるが、その後電力危機が深刻化したこともあって95年に2号機のみ運転が再開された。ただし、周辺国には施設老朽化や大地震による事故発生を警戒する声も強く、2011年6月には隣国アゼルバイジャンの環境・天然資源相が「アルメニアが旧式の原発を稼働させ続けていることは全世界への脅迫にも等しい」という旨の非難を発している(注6)。
なお同国の原発についてはシノドス・ジャーナルに掲載されている廣瀬陽子氏の「世界でもっとも危険な原発、アルメニア原発」が詳しい。

以下、地図中には記載なしの国々。

イスラエル
中東における現状「唯一の核兵器保有国」と目されているが、同国政府がこれを公式に認めたことはない。南部ネゲブ砂漠に出力300万~500万KW級の商業炉を建設する計画を有していたが、2011年3月18日、ネタニヤフ政権は福島第1原発事故を受けて同建設計画を断念した(注7)

イラク
1981年6月7日、サダム政権が核兵器開発の一環としてタムーズに建設中であったオシラク原発がイスラエル空軍の空爆によって破壊されたのは有名な話。その後もサダム政権は核兵器開発の意図を捨てていなかったようだが、湾岸戦争やそれに続くIAEAの査察等によって結局実現は阻まれている。2003年のイラク戦争でサダム政権が打倒されて後は、核兵器開発は勿論、民生開発についても具体的な動きは報じられていない。
なおオシラク原発の所在とイスラエル空軍の空爆ルートについては、以前著者が作成した地図を参照頂きたい。

サウジアラビア
具体的な建設予定地等は不明だが、2030年までに原子炉16基の建設する計画があることが報じられている(注8)。建設コストとしては1基当たり70億ドルを見込んでいる模様。

シリア
イランと並ぶ「核開発疑惑国」。2007年9月6日にイスラエル空軍が空爆した施設が「原子炉であった可能性が濃厚」という旨の報告をIAEAが2011年5月25日になって出している。なお「シリアの核開発には北朝鮮が関与している」という見方も根強い。民生用核開発については具体的な動きは報じられていない。

スーダン
豊富な油田地帯を擁する南部地域が2011年7月9日に独立した。それによるエネルギー不足への対処等を目的としたものか、2010年8月22日、2020年までに原発を建設する計画があることが報じられている(注9)。具体的な建設予定地や基数は不明。


注釈
注1.The Jordan Times紙記事「Jordan receives nuclear reactor bids」参照
注2.共同通信社記事「日本は早急な協定承認を ヨルダン原発で、エネ相」参照
注3.miningne.ws記事「France's Areva gets Jordan uranium mining rights」参照
注4.Global Arab Network記事「Egypt, Russia - Training Cooperation in Nuclear Power」参照
注5.共同通信社記事「原子力協定締結交渉見合わせ ブラジルなど5カ国と」参照
注6.News.Az記事「Baku slams Armenian nuclear plant」参照
注7.共同通信社記事「イスラエル原発計画の中止決定 福島第1原発の事故受け」参照
注8.RIA Novosti記事「Saudi Arabia to build 16 nuclear reactors by 2030」参照
注9.The Jerusalem Post記事「Sudan plans nuclear program」参照


参考資料
・Global Arab Network 「Egypt, Russia - Training Cooperation in Nuclear Power」 2010年7月9日
・miningne.ws 「France's Areva gets Jordan uranium mining rights」 2010年2月22日
・News.Az 「Baku slams Armenian nuclear plant」 2011年6月6日
・RIA Novosti 「Saudi Arabia to build 16 nuclear reactors by 2030」 2011年6月1日
・The Jerusalem Post 「Sudan plans nuclear program」 2010年8月22日
・The Jordan Times 「Jordan receives nuclear reactor bids」 2011年7月1日
・共同通信社 「イスラエル原発計画の中止決定 福島第1原発の事故受け」 2011年3月18日
・共同通信社 「日本は早急な協定承認を ヨルダン原発で、エネ相」 2011年6月27日
・共同通信社 「原子力協定締結交渉見合わせ ブラジルなど5カ国と」 2011年7月14日
・日本原子力産業協会 「原子力年鑑2011年版」 2010年11月 日刊工業新聞社