2011年8月10日水曜日

第三百八十八段 ロシアは天丼がお好き

最近のエネルギー資源関連のニュース・報道を見ていると、表題のような感想が脳裏をかすめることがある。とはいっても、ここでいう「天丼」とは、あのどんぶり飯の上に海老天等が乗っかった魅惑の食べ物のことではなく、「同じギャグ・ボケを繰り返す」ことでウケを狙うお笑いの手法のことだ。

具体的な「天丼」事例を挙げていくと、露-欧州間のガス・パイプラインでウクライナやベラルーシ経由のものがある所に、バルト海海底を経由して独露を直結する「ノルドストリーム」計画をぶち上げてこれを実現し(注1)、EUがトルコ、バルカン半島を経由してカスピ海地域等の天然ガスを欧州に運ぼうとする「ナブッコ・パイプライン」計画を立ち上げるや、同地域の天然ガスを黒海海底、バルカン半島を通じて欧州に運ぼうとする「サウスストリーム」計画を発表するといった具合である。

無論、露が実現させた或いは提唱している「ノルドストリーム」や「サウスストリーム」は単なる物真似や対抗心から生まれたものではなく、寧ろ、「対欧州エネルギー供給から発生するロシアの対外的影響力を些かなりとも毀損する動きがあれば、それに対抗・代替的な計画を宣言して相手の計画を潰し、以て自国の対外影響力を保持しよう」とするしたたかな計算の下に繰り出されてきたものであることは、今までにも多数の専門家たちによって指摘されている。

そんな露の「天丼」政策に、最近新たな事案が加わった。場所はバルト海地域と東欧。ロマノフ朝、ソ連と長らくロシア勢力が強大な影響力を誇り、それゆえに現地諸国・諸民族の対露警戒感が根強い地域でもある。当該地域では、現在、以下のように2つの原発建設案件が進められている。

リトアニア・ビサギナス原発
・建設はGE日立が受注
・総工費30~40億ユーロを見込む
・2020年稼働予定
・現状見込まれている原発プロジェクト会社の株主構成は51%:GE日立、34%:リトアニア政府、残余:エストニア、ラトビア、ポーランドの各投資家

ポーランド原発
・3000MW級原発2基の建設を予定
・建設地としてはジェルノビェツが有力と目されている
・7月6日にポーランド議会が原子力法案を可決したことで、当該原発建設に向けた法的枠組みの整備が完了。
・2016年着工、1号機は2020年稼働予定
・GE日立、東芝WH、アレバ・EdF連合の三者が応札予定(GE日立は2011年7月29日に現地企業エネルゴプロジェクト・ワルシャワと当該案件に関する協力で合意し、MOUを締結している)
・総工費180~210億ズロチを見込む

これら原発案件が、エネルギー供給を梃子としたロシアの影響力を少しでも削減しようとする各国の意図に発することは言うまでもない(注2)。

それにロシアが対抗して繰り出してきた「天丼」は、カリーニングラード及びベラルーシにバルト諸国並びに東欧、ドイツへの電力供給を目的とした原発を建設するというもの。
ただ、ベラルーシ建設案はロシア-ベラルーシ関係に左右される面も大きく現時点では具体性に欠けたものとなっており、またカリーニングラード建設案についても、設立予定の原発プロジェクト会社株式についてその49%までをEU諸国に開放する意向を露が示していること以外は不透明な部分が多く、今回露が繰り出してきた「天丼」はインパクトに若干欠けたものとなってしまっている。

ではロシアは今回の事案において、「天丼」を繰り出した甲斐もなく、リトアニアやポーランドでの原発建設によってエネルギー供給を梃子としたバルト三国や東欧に対する影響力が削られてしまうのを指をくわえてみているしかないのだろうか?

そうではない。2011年7月19日、EUによって、ロシアにとって対欧州諸国への影響力維持・拡大の切り札になり得べきカードがもたらされたのだ。
それが使用済核燃料等核廃棄物処分計画策定義務付け規則の発表である。
当該規則の概要は以下の通り。
・当該規則は2011年9月末までの発行を予定
・EU加盟国原子力当局は、2015年末までに最終処分施設建設等の具体的処理計画をまとめた上、欧州委員会に当該計画を提出することが求められる。
・EU加盟国原子力当局から提出された処理計画に不十分な点があれば、欧州委員会はその変更を指示することができる。
・1つの最終処分施設を複数国で利用することも可能。
・核廃棄物のEU外輸出は、輸出国が高深度処分施設等を保有している場合のみ可能。

原発を運用していれば必ず発生してしまう使用済核燃料の処分について、如何に「1つの最終処分施設を複数国で利用することも可能」とはいえ、ポーランドやバルト三国といった諸国よりも、ソ連時代の遺産として多くの再処理施設を擁し、かつシベリアという広大、人煙希薄、地震等の危険性も低いという最終処分場増設にはうってつけの領域を抱えるロシアの方が遥かに幅広い選択肢を有していることは否めないだろう(実際、上述のEU規則も「高深度処分施設等を保有している」国への核廃棄物輸出は認めているわけで・・・・)。

そう考えると、ポーランドやリトアニアでの原発案件、原発建設とそこからの電力供給という点で今回のロシアの「天丼」策が結実する可能性は低いと見られるが、「使用済核燃料の受入」によってバルト三国や東欧諸国へのロシアの影響力を保持・拡大することは十分に可能であろう。

注釈
注1.ノルドストリームは2011年5月7日に敷設工事を完了している。

注2.ポーランドはガス供給の対露依存を軽減するため、自国内のシェールガス開発にも積極的な姿勢を示している。

参考資料
・FBC 「東欧経済ニュース」No732 2011年7月6日
・FBC 「東欧経済ニュース」No734 2011年7月20日
・共同通信社 「ロシア・東欧ファイル」 2011年7月20日
・共同通信社 「ロシア・東欧ファイル」 2011年7月22日
・共同通信社 「ロシア・東欧ファイル」 2011年7月29日
・共同通信社 「ロシア・東欧ファイル」 2011年8月3日
・日刊工業新聞社 「原子力年鑑」2011年版 2010年11月