2011年9月7日水曜日

第四百六段 露朝韓ガス・パイプライン構想と日本

「ロシア-北朝鮮-韓国ガス・パイプライン敷設計画」というものがある。要は、ロシア産天然ガスを北朝鮮経由のパイプラインを通じて韓国に供給しようという計画である(注1)。今までにもサハリンで産出した天然ガスをパイプラインでウラジオストクまで運び、そこから韓国に出荷しようという話はあったが(注2)(注3)、ガス・パイプラインを北朝鮮を経由したルートで韓国まで敷設し、以てロシア産ガスを韓国に送り出そうという計画は今まで現実性のある計画としては語られてこなかったように思う。
そんな「ロシア-北朝鮮-韓国ガス・パイプライン敷設計画」が俄に具体性を持った話として浮上したのは、2011年8月8日のモスクワにおけるラブロフ-金星煥露韓外相会談の場においてであった。

当時の聯合ニュースは以下のように伝えている(赤太字は著者による(以下同じ))。
ロシアを訪問中の韓国外交通商部の金星煥(キム・ソンファン)長官は8日、ロシアのラブロフ外相と会談し、ロシア産天然ガスを北朝鮮経由で韓国に供給するための大規模パイプライン計画と電力供給、鉄道整備の共同事業を推進していくことで合意した。

会談後の記者会見でラブロフ外相は、共同事業と関連した当局間協議を進めており、専門家間で合意に至れば政府レベルの支援を通じた本格的なプロジェクトが実現できると明らかにした。

 北朝鮮への食糧支援と関連しては、すでに500万ドル(約3億8000万円)を支援しており、追加で5万トンの小麦粉を支援する計画が推進されていると伝えた。

 金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪露については、「相当前から招請しており、訪問時期は両国政府の合意により決まる」と説明した。

個人的には、当初、上記ニュースを目にした時は北朝鮮という巨大な「政治的リスク」を抱え込む形になる当該ガス・パイプライン計画の実現性に極めて懐疑的な印象を持ったものだが、それをせせら笑うかのように現実は進行し、2011年8月24日に東シベリア・ソスノブイボルで行われた露朝首脳会談で当該ガス・パイプライン計画実現に向けた合意が成立した。

同日の時事通信は以下のように伝えている。
ロシア訪問中の北朝鮮の金正日総書記は24日、メドベージェフ大統領と東シベリアのウランウデ近郊ソスノブイボルの軍施設で会談した。会談後、チマコワ大統領報道官は、金総書記が核問題をめぐる6カ国協議への無条件復帰と核・ミサイル実験凍結の用意を表明したことを明らかにした。ロ朝首脳会談は2002年8月以来、9年ぶり。
 同報道官は「北朝鮮は核兵器・ミサイル実験・製造の凍結(モラトリアム)導入の問題を解決する用意がある」と述べた。6カ国協議の早期再開に向け、北朝鮮が譲歩する姿勢を示したとみられる。
 会談ではまた、ロシア、北朝鮮、韓国の3カ国が参加する天然ガスパイプライン建設計画を推進することで合意した。計画実現に向け、3カ国の委員会を創設する方針という。メドベージェフ大統領は会談後、「北朝鮮はこのプロジェクトの実現に関心を持っている」と強調した。

こうして計画関連国の間で合意が固まって来ると、次に浮かんでくる障害は国連による北朝鮮経済制裁の存在ということになるが、これについて韓国政府は2011年9月5日に「露朝韓ガス・パイプラインは国連経済制裁の対象外」という暫定的判断を表明した。

聯合ニュースは以下のように伝えている。
韓国政府がロシアの天然ガスを北朝鮮経由で韓国に送るパイプライン建設計画について、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁の対象にはあてはまらないと暫定判断したことが5日、分かった。

 外交通商部当局者は同日、パイプライン建設計画について、「国連の北朝鮮制裁の柱は大量破壊兵器。パイプライン事業が大量破壊兵器と直接関係しなければ、文献上、制裁に反すると判断しにくい」と述べた。

 政府当局者も先ごろパイプライン事業に関して、北朝鮮の攻撃によるものとされる昨年3月の海軍哨戒艦沈没事件を受け、同年5月に公表した北朝鮮制裁措置の対象ではないと発言しており、同事業をめぐる議論が本格化するかどうか注目が集まっている。

 政府内外からはパイプラインの連結に使われるアルミ鋼管や北朝鮮に支払う年間約1億ドル(約77億円)の費用が大量破壊兵器に転用される可能性を懸念する声が上がっている。だが、大量破壊兵器との関連性が明らかにならない限り、建設計画自体が国連の北朝鮮制裁に違反すると見なすのは難しいと判断したようだ。

 国連は安保理決議に基づき、大量破壊兵器に使われる可能性がある技術・材料などの北朝鮮への輸出を禁じている。

以上のような経過を辿り、若干の不透明さは残しつつも実現への動きが進んでいる露朝韓ガス・パイプライン計画に対する個人的な注目点は、仮にこのパイプライン構想が実現した場合の延伸の可能性である。というのも、当該パイプライン計画において終着点とみなされている韓国の南には日本があり、分けても韓国に近い西日本では将来的な天然ガス需要の拡大が想定されるからだ。

西日本は今まで電力の多くを原発に依存してきた(注4)。具体的なデータで示すと、以下の通りである(注5)。

         自社総発電量(1000kwh)  原子力発電量(1000kwh:自社総発電量に占める割合)
関西電力   131,522,249           66,953,812(51%)
四国電力    29,408,223           16,103,978(55%)
中国電力    45,222,165            2,280,760(5%)
九州電力    80,580,028           37,374,870(46%)
(参考)
東京電力   264,065,162           83,845,029(32%)

だが、新たに成立した野田内閣の鉢呂経産大臣は、マスコミからのインタビューに答える形で原発の今後について以下のような見解を表明しており(注6)、早晩、西日本の各電力会社は「減少していく原発の穴を如何に埋めていくか?」という問題と向き合わざるを得なくなると推測される。
そして「原発の穴」を埋 め得る電力供給源を考えると、発電量の規模や安定性等を考慮すると火力発電が後継の最右翼ということになるだろうし、更に二酸化炭素排出に係る国際合意等 を重ねれば、燃料源として重油や石炭ではなく、天然ガスを用いる火力発電が原発の後継となる可能性が最も高いと考えられる。
 鉢呂経産大臣インタビュー記事(時事通信より一部抜粋 見易さを考慮して大臣の回答部分を赤太字とした)
-野田佳彦首相は、新規の原発建設は難しく、寿命が来たものは廃炉になると言及したが。
 新しいものは造らない。
 -ある程度時間が経過すれば、原発はゼロになるのか。
 基本的にはそうなる。
 -建設中の電源開発大間原発と中国電力島根原発3号機への対応は。
 現実には建設を凍結している段階で、どう考えるかは今後、十分検討していく。
 -計画中の中国電力上関原発への対応は。
 計画段階のものは、新たに建設するのは難しいのではないか。
 -国際原子力機関(IAEA)に原発の再稼働で意見を求める考えを示したが。
 ストレステスト(耐性評価)の1次評価で、IAEAに再評価を求めることもあるのではないか。原子力安全・保安院、原子力安全委員会が評価し、さらに国際的な機関が評価する。複数の評価を用意し、地元の方々に見てもらえれば、判断材料になる。また、政治レベルで(最終的に再稼働の是非を)判断する一定の基準を作る必要もある。ストレステストの1次評価は、9月中にも各電力会社から1基ずつ程度出てくるとの見通しを持っている。


つまり将来的な予想図として、ロシアから北朝鮮を経て韓国までガス・パイプラインが走る一方で、その韓国にほど近い西日本では脱原発に伴って天然ガス需要が活発化するという構図を描くことができるのだ。これが露朝韓ガス・パイプライン延伸の可能性に着目する理由である。

では果たして露朝韓ガス・パイプラインの日本までの延伸は可能なのだろうか? 今年5月に敷設が完了した大型海底ガス・パイプラインのノルドストリームの事例を参考とすると、ノルドストリームの全長は1223km、そして敷設が行われたバルト海の平均水深は55mで最深459m、パイプライン敷設箇所における最大水深は210mとなっている。
次に日本と韓国の間に目を移すと、釜山から福岡県若しくは山口県までの直線距離はほぼ200km。釜山と福岡・山口を隔てる対馬海峡の平均水深は90~100m。最大水深は120~130mとなっている。海流の問題等もあるので一概には言えないが、深さと距離だけを見れば露朝韓ガス・パイプラインを日本側まで延伸することも決して不可能ではなさそうである(注7)。

今後、日本において脱原発政策が推進されるとして、結果、どこまで日本の天然ガス需要が膨らみ、それが産ガス国ロシアやそこからパイプラインを引いてこようとする北朝鮮、韓国との外交にどう影響してくるのか、今後の展開が非常に興味深い所である。

注釈
注1.なお以前より韓国ガス公社(Kogas)がロシア極東部で積極的なビジネス展開を進めていることは知られていたが、このKogasの動きがどの程度当該ガス・パイプライン計画に影響を与えたのかは現時点では定かではない。
注2.最近の報道だとVoice of Russiaの「Russia, South Korea mull gas supply options」がその一例である。
注3.なおウラジオストクについては、サハリン産ガスの輸送を目的としたサハリン-ハバロフスク-ウラジオストク・パイプラインの敷設が進行中であり、更に終着地のウラジオストクについては同地でのLNGプラント建設に係る合意が2010年7月10日に日露政府間で成立している。
注4.無論数字を見れば明白なように、中国電力は例外的存在である。
注5.当該データは資源エネルギー庁が発表している「発受電実績(一般電気事業者)」の平成22年度版に拠った。
注6.2011年9月5日に時事通信が報じた同大臣のインタビュー記事から、原発に関する部分を抜粋した。全文については参考資料のリンク先を参照のこと。

注7.無論、パイプライン延伸に拘泥する必要はなく、例えば既にLNGターミナル等が設置されている仁川や光陽、統営等において必要な設備拡充を行い、そこからLNG船を使って日本に運ぶという方法もありえよう。

参考資料
・PIPELINES INTERNATIONAL 「Sakhalin – Khabarovsk – Vladivostok Pipeline progressing」 2010年8月16日
・RIA Novosti 「Nord Stream: a gas pipeline to Europe under the Baltic SeaStream」 2010年4月13日
・Voice of Russia 「ウラジオストクでLNG工場を建設」 2011年7月10日
・Voice of Russia 「Russia, South Korea mull gas supply options」 2011年8月5日
・資源エネルギー庁 「平成22年度 発受電実績(一般電気事業者)」
・時事通信 「北朝鮮、核実験凍結の用意=送ガス管計画推進で合意-ロ朝首脳会談」 2011年8月24日
・時事通信 「原発、月内にも1次評価=鉢呂吉雄経済産業相インタビュー」 2011年9月5日
・日本エネルギー経済研究所 「韓国の天然ガス需給動向及び需給計画」 2008年12月
・聯合ニュース 「韓露外相、北朝鮮含む共同事業推進に合意 」 2011年8月8日