2011年10月13日木曜日

第四百十四段 イランの「冒険」を可能たらしめているもの

最近、イランの活発な対外政策が続いている。例えば、イラン革命後としては初となるイラン海軍艦艇の紅海・スエズ運河を経由したシリア訪問、同国海軍司令官によるイラン海軍の展開地域を「従来のペルシャ湾・オマーン近海を超えた範囲まで拡大させる」旨の発言や米国近海への海軍艦艇派遣発言(注1)、イラン海軍潜水艦及び水上艦の紅海派遣、そして衝撃的なのが最近報じられた「イラン政府によるサウジ駐米大使暗殺計画」の発覚である。

では最近、何故イランはこうした積極的な若しくは冒険的な対外政策に乗り出しているのだろう?
そこには内政面も含めた様々な理由があろうが、少なくともその一因は地図を見ることで自然と浮かんでこよう。


イランを中心として地図を見た場合、まず北を見れば、コーカサスや中央アジアの諸国は勿論、それらに依然として強い影響力を有するロシアとの関係が良好である。
東を見れば、アフガンで政権を握っているカルザイ政権は以前よりイランが支援を行ってきた北部同盟を母胎としたものであるし、そのカルザイ政権と激しく対立するアフガン・タリバンについてもアフガンに駐留する米軍を共通の敵とした協力関係が成立していると言われている(注2)。またパキスタンともIPパイプラインの敷設等、経済やエネルギー面を中心に関係を強めている。
西を見れば、2003年のイラク戦争で長年の九敵であったイラクのサダム・フセイン政権が崩壊し(注3)、イランと宗派を同じくするイスラム教シーア派住民を中心とする政権が成立し(注4)、トルコとはエネルギーや経済、クルド人独立派対策といった分野での協力関係を深め(注5)、これまた良好な関係の構築に成功している。

要するにイランの現状は、四方東西南北のうち、東西北の憂いが除去された(控え目に言えば低減された)状態にあると言える。となれば、残る一方の南、即ちペルシャ湾やアラビア半島、そしてアデン湾や紅海を対象とした冒険に乗り出す余裕が出てくるのも宜なるかなというもの。つまり、地政学的な”後顧の憂い”の不在がイランの積極的、冒険的対外政策を後押ししていると考えられる。

イラン政府がどこまで意識的にこうした戦略的環境の構築に動いたのかは不明だが、少なくとも「相手に喧嘩を売るなら(挑発をかけるなら)、まず後顧の憂いを絶ってから」という姿勢は、是非とも見習いたいものである。


注釈
注1.なおイランの「米近海への海軍艦艇派遣」発言に対し、米国側は「大言壮語の類」として静観の構えを示している。
注2.イランとアフガン・タリバンの共闘関係は今までにも度々指摘されてきた。両者とも米軍を目下最大の敵としていることでは共通しており、あっても不思議な話では全くないが、両者の協力関係がどの程度強いものなのかについては諸説あってはっきりしない。
注3.イランにとってイラン・イラク戦争(1980年~1988年)以来の仇敵であったサダム政権を葬ったのが、これまたイラン革命(1979年)以来の敵対者である米国であり、しかもその米国がサダム政権崩壊後のイラクで多大な出費と流血を強いられる羽目に陥ったことは、これ以上ない僥倖であったと推測される。
注4.お互いの宗教・宗派が同じだからと言って必ずしも二国間関係が良好に保たれるわけではないが、イラン政府にとっては、少なくとも前注で触れたような因縁を持つサダム政権よりも現イラク政権の方が遥かに与し易い相手ではあろう

注5.なおイランは今年中頃からクルド人独立派組織PJAK(トルコ領でのクルド人独立武装闘争を行っているPKKの傘下組織とされる)への掃討を強めて多数の幹部を殺害・捕縛し、2011年9月30日にはイラン革命防衛隊陸軍副司令官が「PJAKはイラン政府に降伏した」旨の発表を行っている。

参考資料
・CNN.co.jp 「イラン、米国近海へ戦闘艦船の派遣発表 「大言」と国防総省」 2011年9月29日
・Gulf Times 「China likely to get gas pipeline contract」 2011年8月2日
・Gulf Times 「Iran, Russia sign MoU on transport links」 2011年8月7日
・IRIB 「イラン海軍、大西洋への艦船派遣を計画」 2011年7月18日
・IRIB 「イラン革命防衛隊の司令官が、PJAK掃討作戦で殉教」 2011年7月23日
・IRIB 「イラン、トルコ、イラクが国際銀行の設立で合意」 2011年7月29日
・IRIB 「イランの電力輸出、昨年より25%増加」 2011年8月30日
・IRIB 「イラン革命防衛隊、「PJAKは降伏した」」 2011年9月30日」
・naval-technology.com 「Iranian Navy to Expand Operational Zone」 2011年3月15日
・naval-technology.com 「Iranian Navy vessels to patrol Red Sea」 2011年9月1日
・News.Az 「Iran to build new road to Nakhchivan」 2011年9月16日
・News.Az 「Iran to deploy vessels near US waters」 2011年9月27日
・Radio Free Europe Radio Liberty 「Iran Asks Russia About Building More Reactors」 2011年9月24日
・Today's Zaman 「 Senior PJAK leader killed, Iran says」 2011年9月7日
・TOLOnews 「Iranian Defence Minister Visits Afghanistan」 2011年6月19日
・TOLOnews 「Iran, Pakistan Support the Taliban: Afghan Official」 2011年7月15日
・共同通信 「イラン組織がサウジ大使暗殺計画 米長官「背後に政府の指示」」 2011年10月12日
・新華社 「伊朗军舰通过苏伊士运河」 2011年2月22日