2011年11月20日日曜日

第四百二十四段 東アフリカ・クエスチョン

今年7月9日に南スーダンが念願の独立を果たして以後、様々な動きがアフリカ東部で相次いでいる。

それらの動きを時系列で並べると以下のようになる。

2011年7月9日 南スーダン独立宣言
2011年7月14日 ケニア、ソマリア難民受入用のキャンプを増設(注1)
2011年8月2日 南スーダンPKOへの参加に韓国政府が積極姿勢を示す(注2)
2011年8月6日 IFC等がケニア-ウガンダ鉄道整備・近代化に対して約1.6億ドルのローン供与を行うことを発表(注3)
2011年10月14日 武装勢力LRA(注4)掃討支援を目的として米軍100名がウガンダ等に展開(注5)
2011年10月16日 ケニア軍がソマリアを拠点に活動する武装勢力アル・シャバブ掃討を目的としてソマリアに侵攻(注6)
2011年10月22日 「フランス海軍機、ソマリア南部キスマユを夜間に空爆」とケニア軍広報官が発表(注7)
2011年10月28日 エチオピア南部アルバミンチ空港がソマリア等に展開する米軍UAVの基地として利用されていることが報じられる(注8)
2011年10月31日 ケニアとソマリア暫定政府、アル・シャバブに対する合同軍事作戦の実施で合意(注9)
2011年11月1日 日本政府、南スーダンPKOに陸自部隊を派遣することを決定(注10)
2011年11月9日 ケニアとエチオピア、両国間幹線道路敷設で合意(注11)
2011年11月10日 スーダン軍機が南スーダン領域を空爆(注12)


上記の時系列表を見ていると、ケニア、エチオピア、ウガンダ、南スーダンの治安安定化やインフラ整備を支援することでその発展を助け、以て、その東隣にある海賊やイスラム過激派の巣窟たるソマリア、そして今なお軍閥が割拠して中央政府が有名無実の存在と化している西隣の資源大国DRコンゴにも安定化の波を波及させようとする米国や欧州諸国の思惑があって、それにケニア、エチオピア、ウガンダ、南スーダンといった諸国が馳せ参じている構図が脳裏に浮かんできてしまうのだが、ここで興味深いのは南スーダンPKOへの参加を決定した日本の動きである。

というのも、欧米の東アフリカ安定化戦略の存在を仮定した上で、そこに日本が一枚噛む合理的な理由がなかなか思いつかないからだ。
米国のように覇権国として国際公共財的な政策を行う必要があるわけでもなく、アフリカ東部地域に対して英仏或いは独伊のような旧植民地宗主国としての歴史的な負い目や現地権益を有するわけでもない日本が、ジブチ等を拠点とした海賊対策に注力するだけで飽き足らず、南スーダンといった内陸に乗り出す背景には何があるのか?

こういうと、「南スーダンには油田があるではないか」という声が聞こえてきそうだが、

1.スーダン自体の原油埋蔵量(南部独立前推計) が5000MMbblと他のアフリカ産油国と比してそれほど大きいわけではないこと(参考例:リビア46420MMbbl ナイジェリア 37200MMbbl アルジェリア12200MMbbl アンゴラ9500MMbbl エジプト4400MMbbl)
2.現状では輸送手段が対立国スーダンを経由して紅海に積み出すパイプラインしかなく、新たに他の輸送経路を設置するとしても相応のコストと時間がかかること
3.そもそも日本の原油輸入量に占めるスーダン (南部独立前)の割合はせいぜい2%前後(注13)でしかないこと

以上の3点を踏まえるならば、「南スーダンの石油権益」なるものは、南北スーダンの対立激化や南スーダン内部での民兵勢力の跋扈が報じられる中でPKOに派遣される陸自隊員の命、そしてそれが失われた場合に発生するであろう政権危機の可能性等と衡量して十分に魅力的な見返りだとはとても言えそうもない(注14)。

果たして日本政府は、南スーダンPKOの見返りとして何を望んでいるのだろうか・・・・?

注釈
注1.BBCの2011年7月14日「Horn of Africa drought: Kenya to open Ifo II camp」参照
注2.東亜日報の2011年8月2日「南スーダンへのPKO派遣、韓国政府が積極的に検討」を参照

注3.ecool.jpの2011年8月6日「IFC、国際金融機関とケニア-ウガンダ鉄道へ1億6400万ドル融資」を参照
注4.正式名称は「Lord's Resistance Army(神の抵抗軍)」。1987年に結成されたウガンダを中心に活動する武装勢力で、「モーゼの十戒」に基づく神政国家樹立を主張している。ウガンダや南スーダン、DRコンゴ、中央アフリカ等で住民虐殺や強姦、誘拐を繰り返し、国際的に非難されている。指導者のジョゼフ・コニー氏に対しては、人道に対する罪で国際刑事裁判所から逮捕状が出ている。
注5.BBCの2011年10月14日「US to send troops to Uganda to help fight LRA rebels」を参照

注6.時事通信の2011年10月16日「ケニア軍がソマリア進攻=イスラム過激派を追撃」等を参照
注7.共同通信の2011年10月25日付「ロシア・東欧ファイル」を参照。なお空爆対象となったキスマユは、武装勢力アル・シャバブの拠点の一つとされている。
注8.Washington Postの2011年10月28日「U.S. drone base in Ethi­o­pia is operationalを参照
注9.Voice of Russiaの2011年10月31日「Somalia, Kenya to jointly tackle Al-Shabaab」を参照
注10.共同通信の2011年11月1日「陸自の南スーダン派遣を決定 年明けの出発目指す」を参照
注11.All Africa.comの2011年11月9日「Ethiopia, Kenya Sign U.S.$743 Million Road Corridor Project」を参照。なお当該幹線道路の敷設コストは約7.4億ドルと見積もられている。

注12.Al Arabiyaの2011年11月10日「Sudan bombs South Sudan camp, kills 12: Officials」を参照
注13.電気事業連合会が2010年1月に発表した「図表で語るエネルギーの基礎2009-2010」によれば、2008年度時点で日本の総原油輸入量に占めるスーダンの割合は2.2%となっている。
注14.なお、過去にDRコンゴやモザンビーク、東ティモールといった国々に対して行った日本のPKOが、その後資源権益獲得に結び付いたという話は寡聞にして聞かない。


参考資料
・Al Arabiya 「Sudan bombs South Sudan camp, kills 12: Officials」 2011年11月10日
・All Africa.com 「Ethiopia, Kenya Sign U.S.$743 Million Road Corridor Project」 2011年11月9日
・BBC 「Horn of Africa drought: Kenya to open Ifo II camp」 2011年7月14日
・BBC 「US to send troops to Uganda to help fight LRA rebels」 2011年10月14日
・BBC 「Kenya sends troops into Somalia to hit al-Shabab」 2011年10月17日
・ecool.jp 「IFC、国際金融機関とケニア-ウガンダ鉄道へ1億6400万ドル融資」 2011年8月6日
・JOGMEC 「南部スーダン独立と石油開発の行方」 2011年3月3日
Voice of Russia 「Somalia, Kenya to jointly tackle Al-Shabaab」 2011年10月31日
Washington Post 「U.S. drone base in Ethi­o­pia is operational 2011年10月28日
・共同通信 「ロシア・東欧ファイル」 2011年10月25日
共同通信 「陸自の南スーダン派遣を決定 年明けの出発目指す」 2011年11月1日
・時事通信 「ケニア軍がソマリア進攻=イスラム過激派を追撃」 2011年10月16日
・電気事業連合会 「図表で語るエネルギーの基礎2009-2010」 2010年1月9日
・東亜日報 「南スーダンへのPKO派遣、韓国政府が積極的に検討 」 2011年8月2日