2011年12月29日木曜日

第四百二十九段 イスラム金融メモ

金利というものは、単純に金銭貸借において授受される他、ある時は投資収益の判断材料となり、またある時は一国の景気の判断基準になったりと我々の社会の様々な局面に深く根付いた存在である。
だが世界とは広いもので、イスラム教徒が多数を占める国・地域では、その金利を排する形で様々な金融取引が行われる所謂「イスラム金融」なるものがあるという。
そんな彼我の金融システムの違いに単純に興味を覚えてちまちまと情報を集めているのだが、それらを取り敢えずまとめてみたのが当該段。

まずイスラム金融の基礎を知るため手にとって見たのが以下の二冊。





どちらの内容も「金利禁止」を最大の特徴とするイスラム金融において、具体的にどのような金融取引・商品が存在するのかを説明するものとなっている。
そんな両書を比較するとどちらかと言うと「イスラム金融―仕組みと動向」の方が例示や図解が多く、分かり易い気がした。
ただし、どちらも「イスラム教では教義によって金利が禁止されている」というのを当然の前提として論を進めているせいか、「金利の禁止」がどのような範囲に及ぶのか? 授受するだけではなく金利を容認する金融システムで用いられているLIBOR等を指標として利用することも駄目なのか? 金利を容認しないイスラム金融と金利を容認する社会で用いられているIFRS等の会計基準との整合性はどのように図られるのか? といった問題点はあまり掘り下げられていない。

次に読んだのが以下の本。



この本では主に前近代を対象として、形而上のみならず日常の様々な諸活動まで包摂するイスラム教と言う価値体系における商業等経済活動の位置付け、並びにそれが如何なる法体系の規制を受けていたかを論じている。従って現代のイスラム金融について直接触れた部分は少ないものの、その歴史的な背景を掴むには好適な一冊だと思われる。
なお、当該作品で最も参考になったのが、イスラム教におけるリバー(日本では一般に「利子」と訳されている)禁止規定についての記述である。それによれば、リバー禁止規定の範囲が不当な高利に限定されるのか利子一般に及ぶのかはイスラム法学派や学者によって長年議論の分かれてきたところであり、前近代においては禁止規定が高利に限定されるという解釈が一般的で、現代、特に1970年代以降は禁止規定が利子一般に及ぶという解釈が有力になったという。
個人的に、モンゴル帝国時代について書かれた本に目を通していて「イスラム商人による中国における金貸し業」に触れた箇所がある度に「イスラム教だと利子の授受は禁止されていたんじゃなかったのか?」と疑問に思っていたのだが、なるほど、前近代のイスラム教においては「不当な高利」のみが禁止されていたのであれば、モンゴル帝国時代にイスラム商人が金貸し業を営んでいても不思議ではない。これで一つ疑問が氷解した。

また最近、カタールの英字紙Gulf Timesに今年12月29日から同国取引所にてカタール政府発行の短期債が取引開始となる旨の記事に出会った。以下に引用した英文がそれである。
T-Bills are public debt instruments (Securities), which are issued by Qatar Central Bank at a discount to the face value. On the maturity date the full par value is paid by the issuer to the investor.
T-Bills provide investors with the opportunity to benefit from a “guaranteed return” over a short period.
QE will begin treasury bills trading with the introduction of a number of TBills, all of which have been issued by Qatar Central Bank to the primary market.
The stock exchange yesterday announced its “full operational and regulatory readiness” to launch the debt instruments market.
Qatar Exchange Deputy CEO Rashid bin Ali al-Mansoori said the QE management received the approval of Qatar Financial Markets’ Authority to launch the Debt Instruments Market. QE has received from Qatar Central Bank a list of T-Bills that will be listed for trading as of December 29.
Al-Mansoori referred to a statement by HE the Qatar Central Bank Governor, Sheikh Abdulla bin Saud al-Thani, which is published on the QCB website in which he announced the start of listing short term T-Bills on the QE from December 29. This is a first step to launch the secondary market trading for bonds on Qatar Exchange providing the diversification of investment instruments in the Qatari market.
The listing of the short term T-Bills on Qatar Exchange is expected to attract the attention of banks, financial institutions as well as investors, and the listing of Government Bonds and the presence of a bond market will encourage companies to issue and list bonds as another alternative for financing and ultimately contribute to increasing liquidity in the market.
A T-Bill has three principal characteristics, which determine its value to an investor. They are discount yield, maturity date and principal amount (Par Value)
The discount yield is a function of the price paid and represents the rate of return on the treasury bill on an annualised basis. The higher the discount yield (the lower the price paid), the greater the return to the investor.
Maturity date is the one on which the issuer repays the par value to the holder of the T-Bill. All T-Bills are short term, as they are issued with a maturity date that is equal to or less than one year from the issue date. They are usually issued with maturity periods of three months, six months and nine months.
2011年12月27日 Gulf Timesより

記事を読むと当該短期債は割引債形式で発行されているらしい。ここで思い出したのが、日本財務省サイトにて公開されていた資料「バハレーンにおけるイスラム金融の実情」で紹介されていた、バーレーン政府発行スクーク債の話である。当該資料によると、バーレーンは以下のような形で割引債に相当するスクーク債を発行していたという。
短期物については、スクーク・サラームという形式で、中銀が政府に、例えば、アルミ(国営の精錬会社あり)を注文し、その資金を前渡して、期日にアルミを売って資金を返還するものである。これによると、前渡金より期日の返済額が多くなるため、いわば割引国債に相当するスキームといえよう。

短期債、そして割引債形式と言う点で12月27日付Gulf Timesが伝えるカタール政府発行債と共通している。ただし当該Gulf Times記事では、バーレーン例における国営アルミ会社に該当するものがあるのか否か、あるとしたらそれはどんなものなのか、といった点がよく分からなかったので、カタール中銀及びカタール取引所のサイト(英語版)に何か情報はないか調べに行った。
だが、両サイトで「T-Bills」等関連するであろう語句を使って検索をかけてみても当該Gulf Times記事以上に詳しい情報を見つけ出すことはできなかった(これは単に自分の調べ方が悪いだけかもしれない)。
それでも収穫が全く無かったわけでもなく、カタール中銀のサイトにて以下の文章を見つけることが出来た。
In September 2003, the Government issued a US $ 700 million Islamic Trust Certificate (ITC or Sukuk). The issued Sukuk had an A+ Standard and Poor’s rating, was endorsed by the Bahrain-based International Islamic Financial Market (IIFM), and was heavily over-subscribed. The Qatari Sukuk carried variable yield at 40 basis points above the LIBOR rate.

この一文から推測するに、スクーク債の投資家に対する利益配分基準を決定する際の指標として、LIBORを利用することはどうやら問題が無いらしい。

「なるほど・・・・」と思っているとまた別の疑問が湧いてきた。それはカタール中銀が設定している「QCB interest rates」の存在である。これってイスラム法上はどんな位置付けになるのだろう?

イスラム金融、まだまだわからないことは多い・・・・・

(不定期に続く)