2012年3月22日木曜日

第四百五十三段 南極情勢に変化の兆し?

「南極」というと厳しい寒さやペンギンやアザラシの類が生を謳歌する野生の王国といったイメージが一般的であろうが、最近中国やインドの急速な経済発展を背景に世の注目を集めだした「資源」という面から見れば、太古の昔、同じゴンドワナ大陸に属する陸塊であった南アフリカやインド、オーストラリアが貴金属類或いは鉄鉱石、石炭等の豊富な鉱物資源に恵まれていることから南極もまた相応の鉱物資源ポテンシャルを有していると想像されること、そして石油・天然ガスについても、70年代時点でアメリカ地質調査所西部大陸棚に石油450億バレル、天然ガス115兆立方フィートの埋蔵量を見込んでいる(注1)、といった具合に「次のフロンティア」としてもなかなか興味深い対象なのだ。

だが、こうした資源ポテンシャルにも拘らず、厳しい気候による開発コストの高さ、1961年に発効した南極条約による各国領有権主張の凍結や1991年にスペイン・マドリッドで各国が調印した「環境保護に関する南極条約議定書」(注2)を集大成とする諸々の環境保護に係る国際合意の存在が相俟って、南極大陸は資源開発における「永遠の処女地」となってきた。

そんな状況に、微かな変化を感じさせる動きが続いている。

まず厳しい自然環境がもたらす開発コストの高さだが、これは営々と続いてきた開発・探査技術の革新と気候変動による環境条件の緩和、そして中国、インドといった人口大国が経済発展に向かって走り出したことによる資源需要の高まりによって必ずしも乗り越えられない壁ではなくなってきている。南極と同じような課題を抱えながらも最近では資源開発のフロンティアと化している北極圏の状況を見れば、そのことがより実感できよう。

次に南極大陸を開発の手から遠ざけてきた国際合意についてだが、2011年10月26日付の共同通信「ロシア・東欧ファイル」が興味深い話を載せている。それによると、同年6月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された第34回南極条約諮問会合において、ロシア代表団が南極大陸を「平和と学術に捧げる自然保護地域」と定めた「環境保護に関する南極条約議定書」(記事中では「マドリード条約」と表記)の放棄を提案する作業文書を提出したという。これに対して他の南極条約締約国48カ国(注3)は公式の論評や抗議を発することなく沈黙を守ったというのだ。

無論、ロシア代表団の提案に対して抗議や反発の姿勢を示さないことが必ずしも賛同と直結するわけではないが、上述のように資源開発コストの壁が着実に低下しつつある中、最近になってロシア国営通信社RIA Novostiが南極大陸に対する各国の領有権主張状況地図を掲載したこと、そして南極大陸領有権主張国たる英国とアルゼンチンとの間でフォークランドを巡って再び緊張が高まってきていること(注4)等を考え合わせると、なんとも気になる動きではある。

南極大陸における各国の領有権主張状況

注釈
注1.この数字を現在のデータと単純に比較してみると、南極にはリビアとほぼ同じ石油埋蔵量を期待できることになる。また当時のソ連は南極のガス・石油ポテンシャルについて「アラスカを上回る」との見方をとっていたようである。
注2.当該議定書は調印地に因んで「マドリッド議定書」等とも呼ばれる。当該議定書の調印国は、2008年時点ではアルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ベラルーシ、ブラジル、ブルガリア、チリ、中国、エクアドル、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ペルー、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ、ウルグアイ、ウクライナ、ギリシア、ルーマニア、チェコ、カナダの33カ国となっている。
注3.南極条約締約国数は第34回南極条約諮問会合時点でのもの。なお2012年1月時点での当該条約締約国数は、南極に基地を設ける等、積極的に科学的調査活動を実施してきているアルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、チリ、中国、エクアドル、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ペルー、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ、ウルグアイ、ウクライナの28カ国(これら諸国は特に「南極条約協議国」と称される)とその他の締約国オーストリア、カナダ、コロンビア、キューバ、チェコ、デンマーク、エストニア、ギリシア、グアテマラ、ハンガリー、マレーシア、北朝鮮、モナコ、パプアニューギニア、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スイス、トルコ、ベネズエラ、ベラルーシの21カ国、総計49カ国となっている。
注4.かつては英国・アルゼンチン両国のナショナリズム衝突の舞台となり、最近では沖合に海底油田の存在も確認されたフォークランド諸島だが、そこにはまた、イギリス本国とその南極観測基地を繋ぐ空港が存在している。

参考資料
・JOGMEC 「南極の地質と石油」 1980年2月
・MSN産経ニュース 「英国からの輸入停止要請 領土紛争でアルゼンチン」 2012年3月1日
・RIA Novosti 「Territorial claims in Antarctica」 2012年2月20日
・共同通信 「ロシア・東欧ファイル」 2011年10月26日
・同上 「「英が原潜派遣の情報」 アルゼンチン外相」 2012年2月11日
・日本外務省 「環境保護に関する南極条約議定書」 2008年12月
・同上 「南極条約・環境保護に関する南極条約議定書」 2012年1月