2012年5月31日木曜日

第四百六十一段 海のグレート・ウォール

2012年5月25~26日に沖縄県名護市にて太平洋島嶼国・地域の首脳を集めた第6回島サミットが開催されたが、その意義として日本の各マスコミは「中国牽制」という側面に注目してこれを伝えた。

その背景には、近年の急速な経済成長を原資に中国が海空軍の近代化・増強を進めて武断的な海洋権益拡大スタンスを採るようになってきたこと、そして各島嶼国への活発な経済援助や移民の拡大を通じて長らく「ANZUSの湖」であった南太平洋での存在感を高めつつあることがある。

こうした中国の参入によって風貌を変えつつある南太平洋のパワーバランスについて、アジア経済研究所が編集・発行している月刊誌「アジ研 ワールド・トレンド」の2012年3月号に大変興味深いレポートが掲載されている。

「浮上せよ! 太平洋島嶼諸国 ―海洋の「陸地化」と太平洋諸島フォーラムの21世紀」と題されたそれについて、個人的に特に強く興味・関心をそそられた個所を抜粋すると、以下のようになる(中略及び赤太字化は当ブログ著者による)。

メラネシア三国(当ブログ著者注:パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツのこと)は、一九八八年三月、メラネシアン・スピアヘッド・グループ(MSG:メラネシア急先鋒グループ)を結成した。後にフィジーも加わり、メラネシア急先鋒グループは南太平洋フォーラム(当ブログ著者注:太平洋島嶼国及び豪、NZによって構成される地域機構)内の自立派として豪・NZのアンザス二国と対決してゆく。
・・・・(中略)・・・・
二一世紀に入ると、中国と太平洋の島嶼諸国の貿易は加速度を加え、年率三〇%の勢いで増大し続け、二〇〇一年に九一〇〇万米ドル(七二億円)であった貿易額は、二〇〇八年には一〇億米ドル(八〇〇億円)へと、一一倍にも増大したのだ。(Fijilive,2010.7.20)
これは、太平洋島嶼国のアメリカ、日本、EUとの貿易額を上回るばかりか、域内大国オーストラリアとの貿易額一億五〇〇〇万米ドル(一二〇億円)の六倍以上である。
すなわち、太平洋における中国の経済的プレゼンスはアンザス三国を完全に上回った!
・・・・(中略)・・・・
豪を北から東へぐるりと取り囲むメラネシア急先鋒グループが豪に離反すれば、豪はアメリカから完全に遮断されるのだ。
・・・・(中略)・・・・
最後に、中国が二一世紀に入って、集中豪雨的に援助を与えた国の名を挙げておこう。
東からクック諸島、トンガ、フィジー、パプアニューギニア、東チモール。
・・・・(中略)・・・・
中国にとってフィジーは「アンザスの湖」に打ちこんだ戦略的楔。ここにミサイル基地を配備すれば、オバマが宣言したポート・ダーウィンの海兵隊及びミサイル基地を背後から封殺できる。


当該レポートを読んでいてふと思ったのだが、もし仮に当該レポートで指摘されているメラネシア急先鋒グループにおける中国の軍事的プレゼンス確立の可能性が現実のものとなり、そこに加えて中国がフィリピンを屈服させる形で南シナ海の支配権をも手中に収めた場合、以下の地図に示すように、ベトナム沖合から南太平洋まで東西に延びる帯状の中国勢力圏、まさに「海のグレート・ウォール」が登場することになる。




もしこの「海のグレート・ウォール」が現実のものとなったなら、どのような事態を惹起することになるかを考えると、「浮上せよ! 太平洋島嶼諸国 ―海洋の「陸地化」と太平洋諸島フォーラムの21世紀」が指摘する米豪ラインの分断は無論のこと、米豪にとって重要な安全保障上のパートナーたる日韓と一大資源供給地たる中東や豪州とを繋ぐ海路にも中国の鋭い匕首が突きつけられることになる。この匕首の恐怖は日韓両国内において「米国につくか、中国につくか」という議論をより先鋭化させ、超党派的な安定した外交政策の実現を一層困難なものとし、中国の現状変更的な対外活動により多くのチャンスを提供することになるだろう(この辺り、当ブログの関連段として第四百五十九段第三百六十一段も御参照頂きたい)

参考資料
・塩田光喜・黒崎岳大 アジ研ワールドトレンド2012年3月号「浮上せよ!太平洋島嶼諸国」 2012年3月 アジア経済研究所
・日本外務省 「第6回太平洋・島サミット We are Islanders ~広げよう、太平洋のキズナ~」
・毎日新聞 「島サミット:海洋安保、中国にらみ…米の初参加で再構築」 2012年5月26日

改訂
・2013年5月23日、地図が小さいのでよりサイズの大きなものに差し替え