2012年11月17日土曜日

第四百七十二段 射程距離で見るレバント情勢

中東が(いつも通り)荒れている。

・・・・と言っても、広い中東の中で近頃ひときわ荒れが目立つのが、シリアやレバノン、ヨルダンやイスラエルからなる東地中海沿岸部、所謂「レバント」地方である。当該地方の情勢が今後世界全体にどのような影響を与え得るのかについては、取り上げる視点の如何によって様々な一枚絵を描くことが可能だろう。

差し当たって、当ブログのこの段では、弾道ミサイルやロケット弾の射程距離という極めて狭い範囲に視点を限定して日本への影響を考えてみることにする。

すると、以下の地図のような構図が浮かび上がる。


まず南のガザを見るに、当地を拠点とするハマスが有している最長射程兵器のファジュル5ロケット弾は、その最大射程が75kmとされる(注1)。 そしてガザ南部からスエズ運河一帯にかけて直線距離は大体200km強である、よってハマスのロケット弾の脅威が現時点でスエズ運河に及ぶことはない。

次に北のレバノン南部を見るに、当地を押さえるヒズボラのミサイル戦力だが、過去にシリア・アサド政権からの供与が報じられた(注2)M-600ミサイルの最大射程は300kmとされている。上記地図で2番目に大きい赤円でその射程距離圏を示しているが、やはりこれもスエズ運河には届かない。問題は、射程距離が600kmに及ぶスカッドCミサイルである。これについては、シリアが内乱状態に陥る以前からシリア・アサド政権からヒズボラへの供与・流出疑惑が取沙汰されてきた(注3)。もしヒズボラが当該ミサイルを入手するようなことがあれば若しくは既に入手していたとした場合、上記地図で示すように、その射程距離圏内にスエズ運河がすっぽりと収まることになる。

従って、今の所日本への影響が殆どないレバント情勢だが、今後、ヒズボラやシリア・アサド政権がスカッドCの使用をちらつかせた場合や、ガザのハマスがM-600等といった射程距離200km超の攻撃手段を手にした場合、或いはその両ケースが現実のものになるようだと、「スエズ運河の安全」を減退させ、運輸コストや輸送日数の増大という日本全体としてはあまり有難くない形で影響を及ぼしてくることになるだろう(注4)。

注釈
注1.なおファジュル5ロケット弾は、レバノン南部を地盤にイスラエルと対峙しているヒズボラも大量に保有している。
2.Jerusalem Postの2010年5月6日付「Hizbullah received hundreds of Syrian missiles」参照のこと
3.当該疑惑については例えばWall Street Journalの2010年4月14日付「Syria Gave Scuds to Hezbollah, U.S. Says」やそれに対するヒズボラ側の反応を伝える中東調査会の2010年5月28日付「かわら版」No81等を参照のこと。
4.もっとも、1956年にエジプト・ナセル政権によってスエズ運河が閉鎖された折、日本の海運業界は船腹需給の逼迫と海上運賃市況の急騰に伴う活況、所謂「スエズ・ブーム」に湧いたりしていたのだが・・・・。

参考資料
・Jerusalem Post 「Hizbullah received hundreds of Syrian missiles」 2010年5月6日
・Wall Street Journal 「Syria Gave Scuds to Hezbollah, U.S. Says」 2010年4月14日
・安全保障貿易情報センター 「Newsletter on Security Trade Control クロノロジー」Vol.16 No.1 2010年5月18日
・中東調査会 「かわら版」No81 2010年5月28日