2012年12月15日土曜日

第四百七十四段 悲惨指数 in 中東

数ある経済指標の中に、「悲惨指数」というものがある。聞くだけで何とも気が滅入ってしまいそうな名前の指標だが、要は、人々が日用品類の価格上昇と失業という、想像するとこれまた気が滅入りそうな経済事象にどれだけ晒されているかを示す指標である。

算出式は以下の単純なもので、一般に先進国では10%を超えると、国民の不満が高まり現政府の持続性に危険信号が灯ってくるとされる。

悲惨指数 = 失業率 + CPI上昇率(前年比)

では、この指数、昔から何かと騒がしい中東諸国では、どのように推移してきたのだろうか?

そんな疑問を抱いて、IMFのサイトでデータを漁ってみると、あまり芳しくない。
というのも、過去の各種データが豊富に備わっている米国や欧州諸国、日本等と違って、そもそも失業率を公開していない、若しくはデータを取り始めたのが〇〇年から(結構最近)という国がかなり多かったからである。

そうした制約の中、対象期間を1990年以降にすれば最も多くの国のデータを利用できることが分かったので、早速同年から2012年の失業率及びインフレ率のデータ(推計値含む)をダウンロードし、グラフ化してみた。

なお、対象国は以下の通り。一般に言う「中東」よりは北アフリカ諸国等も含んだ多少広い範囲に及んでいる。
・アルジェリア
・イスラエル
・イラン
・エジプト
・クウェート
・チュニジア
・トルコ
・パキスタン
・ヨルダン

中東等諸国の悲惨指数推移(1990年~2012年)

うん、あれだ。「10%超えたら政権が危ない」なんて説明を鼻で笑うような状態だ(注1)。

ただ、トルコとアルジェリアの当局が、ハードモードな経済状況下、かなり上手く舵取ってきたこと、そして少しグチャっとして見難いが、2010年から11年にかけての所謂「アラブの春」で独裁体制が打倒されたチュニジアとエジプトの悲惨指数が、ここ数年、ほぼ一貫して上昇傾向にあったことが読み取れる。

そこの辺りをもう少し見やすくしようと作成したのが、以下のグラフ。

中東等諸国の悲惨指数推移(1990年~2012年 1990年を100としたもの)

これで見ると、トルコ及びアルジェリアの経済的成功がよりはっきりすると共に、「アラブの春」がレジーム・チェンジにまで至った国ともう少し穏当な形(例えば、現政府がそのまま維持されたり、既存体制を維持した形で政府の交代が行われたといった具合に)で済んだ国との分水嶺が、大体90年比悲惨指数60~70の辺りに存在するんじゃないか、という見当をつけることもできるだろう(注2)

そうなってくると、どうしても気になってくるのが、90年比悲惨指数100以上という状態が珍しくないイラン及びパキスタンの存在であろう。
イランの動向が世界のエネルギー庫たるペルシャ湾及びそこと外界を繋ぐホルムズ海峡の安定に決して無視できない影響力を有していること、そしてパキスタンが実質的な核兵器保有国であると同時にペルシャ湾とASEAN+3地域とを繋ぐオイルルートに面した国でもあることを考えると、両国でで国民が政府や体制に対して不満を募らせやすい状況が長らく続いているというのは、なんともぞっとしない話ではある(注3)。

注釈
注1.なお2012年時点で悲惨指数が10%を下回っているのは、イスラエルとクウェートのみ(それぞれ、約8.66%、約6.36%)。
注2.その意味で、2010年からアルジェリアの悲惨指数が上昇傾向を示しているのが気になる所ではある。 
注3.些か尾籠な喩だが、このあたりはパンツのゴムひもと似ているような気がしないでもない。つまり、ダメかと思ったけど意外に伸びる、伸びる、伸びる。そしてある日、ゴムひものことなんてすっかり忘れた頃にいきなりプツンと…

参考資料
・IMF 「World Economic Outlook Database October 2012」
・ サイモン・コンスタブルら著 「ウォールストリート・ジャーナル式 経済指標 読み方のルール」 かんき出版 2012年2月 上野泰也監訳